第40章 【深緑色】secret cancer
言葉の代わりに緑葉が落ちる
言い返さねぇのか
言い返せねぇのか
表情を無にした轟の態度は
容易に受け入れられるもんじゃねぇ
いつも何考えてんのかわからねぇ野郎だが
こんな頓狂な顔を返されりゃ
後ろめたいどころか
何を言ってんのかわからねぇ
そう見えちまう
何も言う気になれねぇ
心ン中はそれだけだ
(わざわざ教えてやる義理もねぇ。)
踏みしめた足が葉を踏んだ
踏まれた緑は無音の葉
この沈黙ごと踏みつけて
まだ決め兼ねている目的地へと足を出す
追いかけてくる声音に
ゾワと震えが駆け上がった
「ソイツに触んな。」
これはもう敵意じゃねぇ
据わった両目には焼け溶かすような殺気が見える
狂気にも近しい殺意
一触即発
この空気が変わりさえしなきゃ
一戦あってもおかしくなかった
「轟くん!見つけたぁ!」
この女が
現われさえしなけりゃ。
「突然走り出したからビックリしたよぉ…」
「あ、あぁ…ワリィ。」
ジリと焼けた空気に水を注す
その女には見覚えがあった
長い黒髪ストレート
切りそろえられた前髪の下から
チラリとこっちを見る黒い瞳
ハイリとは真逆の色味を醸し出すこの女
間違いなく
今朝の女だ。
「あ、爆豪くんだよね?
体育祭優勝おめで――…」
こっちを向いた視線に合わせることはしなかった
掛けられた言葉は行動で遮った
差し出された手は握手でも求めてるつもりかクソが
ハイリを抱えているこの状態みりゃわかんだろ
そこに誰も居ないかのように
ただ進行方向へと歩を進める
耳に残るのは
地面を踏む音のみ
なんだこのむしゃくしゃした気分は
こいつ等がどんな関係だろうが
仮に俺の予想が適っていようが
願ったりだろ
(テメェらは精々仲良く日向ぼっこでもしてやがれ。)
日向ぼっこというには暑すぎる初夏の日差しの中
ハイリが起きねぇように
小さな頭を抱え自分の胸へと押し当てた。