第40章 【深緑色】secret cancer
射殺されてもおかしくねぇ視線に
右の頬がヒクと上がる
苦笑に近しい俺自身への嘲笑
体育祭の決勝戦でも
こんだけの敵意を出してりゃ
面白れぇ試合が出来ただろうに
その上でぶちのめして
堂々の一位を飾れただろうに
だがイマサラ
イマサラだ
そう…
言えるような事実がここにありゃ
心から笑えるんだろーがよ…
「早合点すんなや…。」
残念ながら
そんなにうまくコトが運ぶんなら
こんな苦労はねぇ
支えていた腕で女を横抱きにして顎で指す
カクンと落ちた亜麻色の頭が示すのは
ハイリの状況だ
(どうりで触れようが抱き締めようが抵抗ねぇわけだ。)
この女
あの状況で…
「コイツ、寝てんのか…?」
「あァ…。」
引っ込めようのねぇ殺気に
複雑な表情を滲ませた轟は
この珍妙な状況に慣れてんだろう
歪な表情のまま
「またか」を息をつき一歩歩み寄る
徐々に変わっていく表情に
恋人というより保護者の顔を見た。
「立ち話中に寝るたァ
どんな神経してやがんだこの女。」
「わりぃ。」
恋敵同士が呆れ笑う異様な間は
失笑が落ちるのみだ
今ばかりはこの気に喰わねぇ舐めプ野郎と
感情を共有できてんだろう
だが
「世話かけたな、預かる。」
その手にハイリを預けるかどうかは
別の話だ。
遥か遠くで音が鳴る
生徒を呼び出すアナウンス
その音を聴きながら
伸びてきた男の手からハイリを遠ざけた。
空を掴んだ手に
再び鋭さを孕む視線と
ヒリと立った焼け焦げるような空気
敵わねぇんじゃねぇかと
二度思わされた
だか今
この野郎に「ハイリを返せ」と言う権利なんざねぇ
「俺が連れてく
テメェはあの女と飯でも食ってろ…」
「何言ってんだテメェ…。」
いくら理解できねぇと言われようが
言い訳を並べ立てられようが
ハイリが気ィ揉んで振り回されてんのは事実だろ
宣戦布告はとっくに済ませてんだ
この場で
俺が遠慮するいわれなんざ何処にもねぇ…
だろーがよ
この舐めプ野郎が…