第39章 ♦番外編♦ はにーホリック
くたりと凭れかかって来る
この瞬間が一番好きだ
視線のやり場がわからねぇまま
額を摺り寄せてくる
この仕草が好きだ
「どうしたんですかホントに…。」
「わりぃ、探しものなら見つかった。」
未だに肩で息をしているハイリには
黙っておくべきだろう
事の最中に廊下が騒めいていた事
どうせ夢中で
本人は気付いちゃいねぇんだ
「み、つかったの?」
頓狂な声を上げる彼女のこめかみにキスを一つ
蜜が絡んだままの指を
見せつけるように舐め上げる
暗くてもはっきりわかる赤は光の下じゃ
相当なもんなんだろうな
「聞きてぇか?」
「いや、いい……。」
だがまだだ
身体の代わりに顔を背け
出来得る限りの身なりを正す
俺の女がこれで終わらせる訳がねぇ
乱れた髪を同時に解き
ふわりと揺らす
充満したシャンプーの香りは
解放された扉に霧散していった
向けられた後ろ姿
装飾品であるはずの猫の尻尾が
生き物のようにしなる
くるりと向いた得意気な顔にあるのは
好戦的ともとれる悪戯な表情だ
ニンと上がった口角
きらりと光る亜麻色の瞳
宣戦布告とも受け取れる言葉が
廊下にまで響き渡る
「Trick and Treat!!」
「……and?」
意味なら分かった
だが聞き返した
なんて答えるのか
わかっていてもコイツの口から聞きたかった
「お菓子持ってるの知ってる、だからちょーだい!
くれたらー……悪戯してあげる!」
小生意気な顔でクスと笑う
流石ハイリだ
菓子までちゃっかり手に入れるつもりとは
(予想以上だ…。)
忘れていた
今宵化けているのは
何も俺だけじゃねぇ
黒い耳に黒い尾
首元で鈴を鳴らすこの女
「焦凍の事だから
『帰ったら続き…』とか言うんでしょ?」
よくわかってやがる
躊躇い無く出てくるこの言葉に
今までの時間を感じ取っちまう
二人で重ねてきた密事の時間
堪らず
笑みを零した。