第39章 ♦番外編♦ はにーホリック
ここまで来て俺の意を汲めない程
馬鹿な女じゃねぇ
混乱してんだ
流れについて来れてねぇ
僅かな動きにチリとなる
首輪を付けられて尚迷子の仔猫は
小さく鳴いた
「お菓子、ないよ……?」
ンな事見りゃわかる
手ぶらな上に
どこにも隠しようのねぇ服装
オロオロと目を泳がすハイリはどこまで気付いてんだか
手を引いた瞬間に思いついた目論見は
予定通り事を運べそうだ。
(まさかこんなロッカーの中になるとまでは
思っちゃいなかったがな…。)
菓子を貰えない場合は
何だったか…
Treat me or I'll trick you.
そうだ
もてなして貰えねぇなら惑わすしかねぇ
それこそが最上のもてなし
極上のスイーツだ
「本当に持ってねぇのか?」
「う、うん…ごめんなさい…。」
クスと上がった唇に剥き出しになった牙が触れる
まるで本物の吸血鬼にでもなったかのような心地
ああ、仮装も悪くねぇ
目の前で目を丸くしているのは
油断しきった迷子の仔猫
何もわからねぇなら
ただされるがままに
「じゃ、本当に持ってねぇか確かめねぇとな…?」
言葉を飲み込む必要なんざなかった
ぽかんと開いた唇は動く気配がねぇ
ただ亜麻色の瞳を震わせて
その視線を一心に俺へと向けていた。