第38章 【深緑色】自 恋 魔
広大な敷地を持つ当校は
建物から数分歩くだけで景色がガラリと変わる
人気がない、なんてザラだ
敢えてその場所を選んだかのような雑木林で
握りしめられていた手首はやっと解放された
――静かだ
向けられた背は振り返る気配すらない
私と違って息も上がってない
それどころか微動だにしない
木々の狭間に私の息遣いだけが浮かんでは消えていく
ここだと学校という事も忘れてしまいそう
一体どうしたというんだろうか
爆豪くんに感じる初めての空気だった
(なにか…あったんだろうけど)
聞きたいのにさっきの目が問いを阻む
すっかり緑が生い茂ったこの林は
私もよく来る場所だ
中々の深緑率だけど…
今日は一層深く思えるのなんでだろう?
それはきっとこの間の所為
例えようの無い間がもたらす静音は
葉が擦れる音を際立たせ
爆豪くんの声を曖昧にした
「―――い…。」
気づけばいつの間に振り返ってるし
静かな目は真っ直ぐにこっちを見ている
紅い瞳はさっきと違って寂し気で
でも真剣で
私の反応は一歩遅れたんだと思う
再び開いた口は
「クッソマズイわッッ!!」
いつもの爆豪くんだった。
「――――――――はい?」
お決まり過ぎてもう表現する気にもならない
右手を掲げ、いつでも爆発してやんぞのポーズ
何これ何なのこれ
何故私がすごまれなきゃなんないの
「まじィっつってんだッあんなの食えるかッ!!」
右手の上で火花がバチとなる
対抗するように握りしめた右手
もはやこの私の右手には
理不尽しかない
「――――なによっ!
この前同じの食べてたじゃないッ!!」
そうだ、爆豪くんは
何も初めて食べた訳じゃない
仮に初めてだったとしても
当校のシェフは一流の料理人
クックヒーロー、ランチラッシュだ
マズいなんてとんでもないし
この爆豪くんが味音痴だとも思えない
つまりこれは―――
「何か理由が…話があるんでしょ?
聞くからちゃんと話して!」
―――何かを誤魔化そうとしてるっていう彼の優しさだ。