第38章 【深緑色】自 恋 魔
揺らぐ瞳の形も
固く結んだ口の形も
見覚えがあった
言いたいのに言えない
言ってはいけないと
自分を抑え込んでいる時の形
何度も見た
鏡の中で
思い出した鈍痛に
胸の上で拳を握りしめた
「……どうしたの?」
わかってる
絶対に教えてはくれない
だけど
だからって尋ねて欲しくないわけでもない
正反対の感情に挟まれる心は
矛盾に満ちている
素直になれない爆豪くんなら尚更だ
(あの頃、私が欲しかったものって
なんだったっけ…?)
目の前の男の子を
小さな女の子と重ねるのは中に難解だ
私より背は高いし
こんな事したら絶対怒られる
だけど
躊躇い無く手は伸びた
たぶんこれが
当時私が一番欲しがっていたもの。
じろりと睨みあげた丸い瞳
見透かすのが上手すぎるソレから
逃げるみてぇに俺の視線は地に刺さった
突発的に動いた所為で
誤魔化し方も不自然
いや違ぇな
ハイリの手を掴んだ時は
誤魔化す気なんざなかったんだ
(ダセェ…)
抑えると言い切ったばっかの自分を
全く制する事が出来てねぇ
グルグルまわる頭に乗った手は
そんな葛藤も見透かしたかのように
言葉を吐いた
「よしよし!大丈夫、出来てるよ!」
覗きこんでくんのは丸い亜麻色の瞳
俺の頭を撫でながら上目づかいで笑ってやがる
何を根拠に大丈夫だって言ってやがんのか
そもそも、俺の頭ン中を解ってやがんのか
向けられた笑みは
あまりに柔らけぇ
(恐らく何も知らねぇまま言ってやがる…。)
俺の葛藤そのものを溶かす様な笑顔が
そう思わせた。
ふと過ぎる
静かな林に俺ら二人だけ
そろそろ予鈴が鳴ってもおかしくねぇ
こんな時間にここへ来るヤツなんざいるか?
答えは
否だ
「ハイリ…」
柔らかな亜麻色の髪に指を差し込み
細い腰を抱き寄せると
返されたのはか細い声
「ばく、ご…くん…」
鼻を掠めるハイリの香りに
眩暈がする
突き飛ばされてもおかしくねぇこの状況で
瞳を閉じたハイリは
俺の方へと体重を預けてきた。