第38章 【深緑色】自 恋 魔
鬩ぎ合う二つの感情を
抑える自信ならあった
俺は舐めプ野郎とは違ぇ
だがそれはどっちも出さねぇ代わりに
どっちも消え失せることはねぇ
まさに板挟み
大きく揺れる天秤は
徐々にその振れ幅を小さくしながら
平衡へと保たれていく
ユラリ
ユラリと
まるで暗示でもかけられているかのように
「ね?
焦凍らしくないと思わない?
朝だってさー…」
「あぁ」
宙に浮いた意識で理解する程
面白れぇ話でもねぇ
眠いわけでもねぇのに瞼は重い
勿論どこに焦点を当てている訳でもねぇ
虚空に留まった視界にハイリの声が一つ
徐々にガヤの中へと溶けていく
蠢く影形
適当に打ち続けていた相槌は
その中の一つの光景に音を消した
(…………は?)
目を疑うっつーのは
まさにこれか
ハイリの向こう側
クラスの奴らの更に向こう
見開いた両目に飛び込んできたのは
並んで食堂内へと入って来る
二人の男女の姿
轟と
今朝の女
(何ッやってッやがんだッッ
あの野郎はッッ!!!)
ドクリと鳴ったのは同じ心臓だ
だがこっちはひらすら胸糞ワリィ
産毛が逆立って行く
全身の血が逆流したかのような感覚
滾り頭に昇っていく
その血潮まで見えそうだ
「ハイリ……。」
「ん?どした?
急に立ち上がって……。」
何を言ったかなんざ覚えてねぇ
どこをどう通って出て来たかも覚えてねぇ
ただ
細い手首を掴んで歩き出した
去り際にもう一度見た後ろ姿
振り返った男と目が合った時間が
一秒にも満たなかったのは
俺がすぐさま目を逸らしたからだ。