第38章 【深緑色】自 恋 魔
「―――ってことがあってねっ!」
場所は大食堂
顔を突き合わせ話に花を咲かせる2人組
正確に言っちまえば
花を咲かせているのは語り手だけだ
溜め息がまた
一つ増えやがる
「もー爆豪くん、聞いてる?」
延々と語るハイリに対し
口の中で舌を打つ
なぜ俺がこんなことを聞かにゃならんのだ
そういうのは女どもに話しゃ済む話だろうが
言えば『もう話した!』と秒で返された
ハイリの向こう側
両手を合わせて頭を下げるのはクラスの女ども
ありゃ散々聞かされた後って事か?
隠す気のねぇ苦笑には
疲れが垣間見える
さすがKYか
一体どんだけ話しゃ気が済むんだこの女は
「その前にテメェ
その腑抜けたツラ何とかしろや…。」
軽く睨みつけてやりゃ
ハイリは握りしめていた両の拳を緩め
ずっと止まらなかった口を漸く止めた
「……そんなに変な顔してる?」
「おー
100年の恋も冷めるツラだ。」
「え"っ!! 嘘ッ!?」
マジなワケねぇだろ
こっちが棒読みだろうが
生返事だろうが
延々と語りやがって
そもそも冷めてりゃ
こんなクソくだらねぇ話、誰が聞いてやるかッ
「うーん、いつもと変わんないけどな
……………待って
つまりいつもそんな顔ってことじゃない!?」
取り出した鏡を覗きこむ亜麻色の瞳は
わたわたと
勝手に自己完結して
一人項垂れやがる
(冗談を冗談だと受け取ってねぇんか…)
眉を垂らし
右頬をつねる姿はどう見たって歳以下
犬の方がもっと凛々しいんじゃねぇか?
項垂れた女は
大きく溜息をつき
自分で乱した前髪を撫でる
そして
サラと前髪が流れると
「よし」とばかりに頷いた
(――――ッッ)
ドクと胸の底が打つ
ついてた頬杖が
意味を無くしちまうくらに
心臓と共に跳ねるように背が伸びた
(コイッッツ、心臓にワリィ…。)