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【ヒロアカ】UAシンドローム【轟焦凍R18】

第38章 【深緑色】自 恋 魔




向けられた大きな背に
少女は視線を彷徨わせた

迎えが来ている事を差し引いても
時間は惜しい

それでも一言
一言だけどうしても言いたい


(言っても、いいかな…。)


迷った時間は短かった

軽く唇を噛み視線は下へ
思案するように閉じられた瞳が
すぐに開かれる


「相澤先生っ…!」


ままよと投げた言葉は
正か誤か

小さな間
室内には再び静音が訪れた。





























呼ばれた教師は予想していた

負けん気の強い頑固者だ

入学前ならともかく
今のハイリが
何も文句を言わずに帰るとは思えない

そして、恐らくその愚痴は
核心をつかない上っ面なモノで
本心から掛け離れたモノ

言う意味も
聞く意味も持たぬモノ

無論、呼ばれた名に
振り返るつもりなど毛頭なかった。


「…なんだ。」


だが振り返った
「先生」と呼んだ
それは「妹」としてではなく
「生徒」としての言葉

ならば教師として
担任として受け止めるべきだと判断したからだ

くるりと回る視界の末
唇を噛み締めた妹の表情に
男の気だるげな眼は細められた


(言いたいことを飲み込む時の表情だな。)


もう癖付いてしまったかのように
胸が痛む

何度
この表情を見て来ただろうか

何故言わない?と問うたこともある
言わないお前が悪いと責めたこともある

だが決して開くことはなかった

その唇が開かれる


「私、もう足踏みするつもりはありません。
だから…特別扱いしないでください。」


まるで蕾が花開く
その映像を
倍速で見ているかのような心地だった


「っ……失礼しましたっ!」


深く頭を下げては
すぐさま背を向ける

ハイリらしくない態度は
身の置き場が無くなった為か
少年に向かう後ろ姿は足早だ


(特別扱いするな…か。)


随分とはっきりモノを言う様になったじゃないか
まさか自分の計算がここまで功を成すとは

強気な態度は
道を定めたからか
後ろにヒーローが控えていたからか


(思惑以上だ。)


兄は笑う
瞳を閉じて
ただ静かに

そしてその笑みを
薄い布の内側へと隠した。





















全ては――思惑以上に……

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