第38章 【深緑色】自 恋 魔
なのに
「それが来てんだ。」
「………へ?」
青天じゃなく雨天だし
かといって
霹靂と言うほどの雷雨でもないけれど
まさに青天の霹靂
そう言うにふさわしい衝撃だ。
「なんで!?
そもそも私、体育祭参加してないっ!!」
教室とはまた違う机が並ぶ職員室
呼び出された私は
差し出されたプリントに目もくれず
大声を上げる
だってそうでしょう?
ヒーロー科には
指名が来てない人だって居るのに
何故出場してすらいない私が…
出遅れたと散々凹んでたくせに
指名が来てたら来てたで不可解だ
こんな性格は相も変わらず可愛げがないなって
自分でも思う
口をついて出てくる言葉は
もっと可愛げのないものだった
「こんなの皆になんて言えばいいの!?
言える訳ないよ……。」
どこへの怒りかわからない
握りしめた拳にグシャと乾いた音がなる
初めて気付いた
いつの間にかプリントを握りしめてたって事
波打つ白い紙は
プルプルと震えていた
「……ああ、そんな事俺だってわかっている
だが蓋を開けてみりゃ成程納得もんだ。
お前もとっとと確認しろ。」
「だからそんなこと――っっ」
やれやれと手を目頭に当てる
この兄代わりは私が反論すると予想してたんだろう
「だから言いたくなかったんだ」とぼやきながらも
開いた瞳は赤く光っていた
「いいか……」
ユラリ
空気すら歪んでしまうような感覚
重力に逆らって無造作に垂れていた毛先が上を向く
ゴクリなった喉はもう条件反射
こうなってしまった消太くんに
私は逆らう術を持たない
「お前は何人もの教師に借りがあるはずだろう?
満場一致だ、これでチャラにしてやる。」
私に言う事をきかせるためなら
何だって使う、“個性”だって使う
使っても意味をなさないその“個性”は
瞬きと共にすぐ解除された
開いた瞳がチラと逸れる
その先で手を振る女性こそ
私が今一番後ろめたさを感じて止まない教師
ミッドナイト
(さっきのねむりちゃんの言葉は
この事だったのか…。)
そんなモノがなくたって
私はどうせ逆らったりできないのだけれど…。
いや、もう逆らったりするつもりはないのだけれど…。