第38章 【深緑色】自 恋 魔
「イヤホンジャック」
「テンタコル」
「セロファン」
「テイルマン」
「シュガーマン」
「ピンキー」
「チャージズマ」
「インビシブルガール」
A組の教室に
次々と上げられていくヒーローネーム
壇上の教師は
声もテンションも上げていく
それはもう高らかに
掲げた右手は天井を仰いでいた
「良いじゃん良いよ
さァどんどん行きましょー!!」
空気に乗れてない
そんな気持ちはきっと
気のせいなんかじゃない
「クリエティ」
「ショート」
「ツクヨミ」
「アニマ」
淀みのないテンポは
私と皆の差
悩みあぐねてる人
すぐに立ち上がった人
個人差はあれど各々ペンを握りしめている
勿論、却下された人だって居る。
「爆殺王」
「そういうのはやめた方が良いわね。」
でも、例え却下されても
すぐにまたペンを握るっていうのは
自分が思い描くビジョンがあるって事で
私にはまだそれが無くて
漠然とし過ぎていて
まだペンに触れてすらいない
決定的な差だ
(ヒーローネーム、ね。)
触れちゃいけないような気がして
爪で弾いたマジックペンは
コロコロと転がって
机の端から落ちてしまった
貴方には必要ないでしょう?
そう言われてるみたいで
出たため息は大きなものだ
(はぁぁぁぁ……)
胸を閉めるモヤは
今日の空と同じ色
わかってるよ
自業自得だよね
皆より先にスタートを切っておきながら
ずっと足踏みしてた
わかってるのに心のモヤを拭えない
皆が笑ってるとこでも笑えない
爆豪くんがなんて怒ってるのか?
そんなの、全然把握できなかった。
(職場体験、どうしよう。)
それでもこの悩みを
放棄する事はもう出来ないの
後に控えている職場体験
例え借りとは言えヒーローとして赴くんだ
ヒーロー名がなきゃ始まらない
雄英体育祭はヒーロー科の為の祭典だと
言ったことを覚えているだろうか?
それがここに繋がって来るというわけだ
体育祭で活躍すればするほど
プロヒーローたちの目に留まる
目に留まれば指名も増える
指名の数はコネクションの数
将来的なチャンスは多いに越したことは無い
つまり最初から…
(出遅れてしまっている……と。)
体育祭に参加すらしていない私に
指名なんて……
来るはずがないもんね。