第38章 【深緑色】自 恋 魔
「むやみやたらにモブっていうの止めなよ…。」
走り去るオレンジ色の傘を見送りながら
呆れた顔で溜息をつく
女の表情は天気程じゃねぇが暗ぇ
わざわざ聞くことなんざしねぇ
原因なんざ単純なモンだ
「一緒行かねぇのか?」
踵を返す姿も
その前に何が起こってたんかも
全部見てた
だが、敢えて聞いた
返ってくる言葉なんざ聞くまでもねぇってのに
「行けると思う…?」
タハハと笑いながら指をさす
目が痛くなるような色彩の人だかりは
今も動く気配はねぇ
ただ数人の女どもが
こっちを横目で見ているだけだった
見てんのは俺じゃなく
ハイリの様子か…
「行くぞ、テメェまで遅刻する気か?」
「行くって言ってるじゃん!
待ってよ!!」
こんな事イマサラな話だが
ハイリを疎ましく思ってる女は一人や二人じゃねぇ
そりゃ轟にも言える事
なんせこの二人は
互いの事しか見えてねぇ
「キツくなったら言えっつってんだろーが。」
「なったらね、言うさ。」
どうだかな
コイツがどう受け取ってどう感じたか
そこは量り知れねぇが
ハイリを突き飛ばした女は
明らかに…
(わざとだろありゃ…。)
女ってのはメンドクセェ
裏と表の差が甚だしい
とは言えコイツもその女だが…
チラと横目で見りゃ
いつの間にか居なくなってやがる
「歩くの早すぎ!
コンパスの差考えてよっ!」
2、3歩先行く俺に駆け寄る音が
パシャっと跳ねたその水音が
妙に心地よかった。
「もー…爆豪くんの彼女は
幸せだねって言おうと思ったのに
やっぱ辞めた、大変だ…きっと!」
「あ"? ンだそりゃ
嫌ならとっとと別れちまえばいいだろうがッ!」
「嫌なんて一言も言ってませーん!」
結局ンとこ
どれ程の女に疎まれようが
コイツが引ける事なんてねぇんだ
なんせ勘違いの末とは言え
俺に宣戦布告してきたくれぇだからな
(それにしても気に入らねぇ…。)
力無く笑うハイリも
素知らぬ顔で輪の中心にいるあの男も
だが今一番気に入らねぇのは
あの女
小さくなりつつある人だかりへと振り返る
ハイリを突き飛ばしたその女は
俺と目が合った途端
傘ごと顔をそむけた。