第37章 【深緑色】欠陥症
焦凍が少し
変だ
「どしたの?」
「別に、普通だ。」
家に帰る途中も
やたらと撫でられてるなって思ったけど
やっぱり気のせいじゃなかった
家に帰ってご飯が済むなり
膝の上に抱っこされて
撫でられているこの状況
いつもとは少し違う
控えめな撫で方が
会ったばかりの焦凍のお母さんを思い出させた。
(やっぱり似てる…親子だね。)
なんと尋ねても返答は「普通だ」一択
それ以上何をする訳でもない
焦凍に限らず
こんな事をされたのは初めてで
少しだけ戸惑ってしまった。
「ねぇ…甘やかしたい気分、とか?」
「普通だ。」
やはりそう返ってくるんだね
私には普通だと思えないんだけど…
様子を伺おうとゆっくり顔を上げると
視線の先には緩やかに目尻を下げた焦凍の顔
初めて見る笑みに
つられて目尻が下がった
(ホント、変わったな…。)
穏やかになった
表情も仕草も
きっと明日になったら
もっとはっきりわかるんだろう
「体育祭で沢山変わったね。」
「そうか?」
「うん…」
体育祭にも
緑谷くんにも感謝だ。
(なら、開き直って甘えていいよね…。)
広い胸に顔を埋め
テレビの音を聞き流しながら
しばしの微睡み
昨夜の睡眠不足と
満腹感も手伝って
私はあっさり夢の中に落ちていった。
夢の中に
お母さんが出てきたの
そのお母さんが私そっくりで
服まで同じで
向かい合って笑ってる
客観的に見ている私はびっくりしてるのに
夢の中の私は
それがさも当たり前かのように普通に話してるの。
ツッコミが追い付かなくて
もうおかしくて
なのに
『あ、焦凍を紹介しなきゃ!』
ってちゃんと思ってるんだから
…相当だよね。
早く紹介したいな
なんて
輪郭の曖昧な背景を見上げながら
そこで夢は終わった気がする…
そんな不思議な夢
きっと焦凍のお母さんに会った事と
この上ない安心感に包まれているお陰だと
思ったの…。