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【ヒロアカ】UAシンドローム【轟焦凍R18】

第37章 【深緑色】欠陥症




少しずつ小さくなる焦凍の背を見て
右手が勝手に胸を抑えた

痛いのとは少し違う
どちらかというと苦しい感じ

出来ればこの背を見送るのは
これが最後が良い

そんな思いが頭の端を掠めていった


(なんでだろ…ここ二週間見送ってた所為かな?)


小さなトラウマにでもなってしまったんだろうか
握りしめた胸元の拳に視線を落とし頭をひねる

再び視界に収めた焦凍の背中は
色んな陰に隠れて
もうその紅白の頭が僅かに見える程度

後ろから温和な声がした


「彼氏かな?」


肩に手が乗って見下ろしてくるのは
茶化すような笑みだ

そういえば驚きのあまり
先生に紹介すら出来なかった


「え、っと…ハイ…」


なんだか急に照れ臭くなって曖昧に応えると
先生はそれ以上何も聞かず
「おいで」と歩を進め始めた


























病院の中って言うのは不思議なもので
どれだけ人がいても
どこか隔絶されたかのような感覚に陥ってしまう
中庭のベンチに腰かけても
それは同じだった

開けた空間
散歩道を囲うように植えられているのはアカシアだろうか
房状についた黄色い花も、もうまばらだ

今日は空が高く見える
もう夏なんだと眩しさがそう言っているみたい


「進学は? 雄英かい?」


コーヒーを一口
空色の世界に影が過ぎる
背もたれの後ろから水色を遮って見下ろす微笑

いつもニコニコしている先生は
私が切り出しにくい話題を
いつもそれとなく誘導してくれるそんな人

こんな人になりたいと
幼心に思ってた

お互い目は合わせず
まるで空という名の鏡越しに
話しているかのように
二人で青天井を見上げた。

もしかしたら知らない人には
本当の…祖父と孫に見えたかもしれない

それくらい
他からの干渉のない空間だった


「はい…ヒーロー科、一度蹴っちゃったんですが
今更ながら頑張りたいな、と思いまして…。」

「そうか…
はー…君はうちの病院に来てくれるものかと思っていたんだがな~」


大袈裟に嘆いて見せる
これは先生お得意の冗談

きっと私の反発もちよちゃんから聞いているんだろう
腕の良い医者というのは
まず、患者さんの心を掴むものなのだ。

すっかり掴まれた私は
そのまま体勢も視線も変わることなく
今日までの高校生活を話し始めた。


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