第37章 【深緑色】欠陥症
「ご…すみませんっ!」
注意される前に頭を下げるなんざ小学生か
などと思いつつ
ふかぶかと頭を下げるハイリの横で
会釈程度に頭を下げた
白髪は地毛と言うより歳のせいか
毛色と同色の口髭
銀縁眼鏡の奥の色は笑みを作りすぎて
見えやしねぇ…
見るからに医師って感じの老爺だが
「仲がいいね。」
注意をしに来たにしてはあまりに柔和な笑みと声に
目端で細い肩がピクリと跳ねた。
そろそろと上がる亜麻色の頭
男を収めた目を丸くし
ぽかんと開き始めた口に片手を添える
二度あることはなんとやら
本日最大の声が吹き抜けの空間へと響き渡った
「先生!!!」
もはや、我に返ることすら忘れ
マジマジとその『先生』を見つめるハイリに
事情を知らねぇ俺は口を噤むしかなかった。
「大きくなったね、ハイリちゃん。」
「お久しぶりです、先生。」
懐かしい声に肩が跳ねた
誰かと思えば顔見知りのお医者様
別に病気でお世話になってたわけじゃなくて
小さい頃はよくちよちゃんのお仕事に
ついて回っていたってだけ
勿論反発し始めてからは一度も来てないのだけれど…
(先生の事だから
来なくなった理由も察してそうだけど…。)
だったらなんだ
ならば尚更言わなきゃいけない
ちゃんとヒーローを目指す事にしましたって
きっとこの先
病院に顔を出す頻度は増えるだろうから…
目は口程に物を言う
惑った視線を先生は微笑んで受け止め
そして
白いひげを蓄えた口元がゆったりと開いた
「…少し、お話するかい?」
驚いた
大人って言うのは
なんでもお見通しなんだろうかって
(どうしよう……。)
確かにありがたい申し出なのだけど
やはり今はそれ所じゃない
答えを求めるように隣にいる人を見上げると
その顔にはもう諦めしか見当たらなくて
「終わったら連絡する。」
それだけ言って焦凍はこの場を去ってしまった。