第37章 【深緑色】欠陥症
思えばこいつは
いつだって「人の為」ばかりだ
「会いたくないわけじゃないの、
次来るときは絶対会いたいっ
だけど今日は駄目だよ!」
両の拳を胸の前で握りしめて力説する
むしろ早く紹介して欲しいから
さっさと行ってこいと背中を押す
俺の肩を後ろから撫で、
言葉と共に二回叩いた。
「大丈夫だよ、大丈夫。」
「その自信はどっからくるんだ…?」
背から伝わる優しい声
何を根拠にと
浮かんできた皮肉すらこいつの術中だ
背に触れる額から
僅かな振動が伝わって来る
「それだけ言えるならじゅーぶんでしょっ!
行ってこーいっっ!!」
ポンと叩かれた背
顧みれば時なんで簡単に止めちまうくらいの満面の笑み
……そして
場にそぐわぬデカい声
飛び出てきた大声に
俺の肩を押していた手はペチと音をたてて
本人の口を塞いだ。
「「……………。」」
吹き抜けの空間
軽くエコーのかかった声に
ざわついていた背景の音がピタと止む
振り返った視線の数は10や20じゃねぇ…
なんてったってここは総合病院だ
そろりと視線を回したハイリは
いつぞやと同じ仕草でわたわたと頭を下げ始めた。
本当に頭が下がんのは
こっちの方だってのに…。
一緒に頭を下げながら
チラと見やった苦笑に小声で礼を投げる
「ありがとな。」
下げた頭にふと過ぎったからだ
どれだけの幸福をコイツから貰っただろうか、と。
いつだって俺の行く道を照らす
光のような女
その女は不思議そうに数回瞬いて
何を勘違いしてんのか悪戯に口角を上げた。
「紹介はちゃんとして貰うからね…?」
いつもの上目遣い
身長差の所為だとわかっていても
狙ってやってるようにしか思えねぇ
もはや条件反射かのように肩を抱き寄せると
奪おうと近づけた唇は
勢い良く伸びてきた両手と甲高い声に阻まれた。
「ちょ!! ここ病院!」
「……それはこっちの台詞だ。」
ただでさえ騒いでんだ
ここは何度も確認するまでもねぇ病院
二度目ともなりゃ周りの反応も変わって来る
気にしねぇ奴は無反応…
その代わり、気にするヤツは……
「すみません…」
声をかけてきたのは
白衣を羽織った年配の男だった。