第37章 【深緑色】欠陥症
ハイリに行き先を伝えなかった理由は
一つしかねぇ
「私はここで待ってる。」
こう言うと思ったからだ。
病院の敷地に入るなりソワソワと目を泳がせ始めたハイリ。
勢い良く「行く」と言った手前、後に引けなくなったか
大人しく院内までついてきたは良いものの
受付に爪先を向けた途端
一ミリたりとも動かなくなっちまった…
からのこれだ
「私が行くの絶対おかしいと思うっ」
手をいくら引けど身を引いて抵抗
ふるふると振られた頭はいい加減取れちまいそうだ
まるで散歩から帰るのを嫌がっている
(犬か…。)
いっそリードでもつけてくりゃ良かった
コイツに首輪…さぞ似合う事だろう。
首輪付きの姿を想像してはクスと笑う
コイツと居るとどんな緊張もほぐれちまう
だから、来て欲しかったんだが……
「嫌か…?」
上擦った自分の声に
ハイリより俺の方が驚いた
長らく会う事を避けていた母親に会いにきた
俺がこれからヒーローを目指すためには
俺に捕らわれ続けているお母さんを
助け出さなきゃいけねぇと思ったからだ。
なのに身が振るう
母親の為だと言いながら
本当に怯えてんのはどっちなんだか
きっとコイツは――…
そんな俺の心ン中まで見えてんだろう
その上で
一人で行けと言ってんだろう
「言っとくけど、嫌じゃないんだよ…?」
おずおずと上げた瞳は機嫌を窺ってんじゃねぇ
まだ迷っているってトコか
恐らく、押せばいける
ハイリのこれは
拒絶と言うより遠慮に近い
(俺じゃねぇ誰に遠慮してんのかくれぇ
わかりきったモンだがな…。)
言わせてもらえば
上手い気遣いも
ここまで来ると厄介でしかねぇ
恥ずかしいだとか
気まずいだとか
いっそ自分の為に拒絶でもしてくれりゃ
「そんな事ねぇ」と無理にでも連れて行けるってのに
(確かに…いきなり会わせたら
お母さんも面食らうかもしれねぇな。)
出来れば会わせたかったが…
どうにも付いてくる気配のないハイリの頑なな態度に
自分のエゴを見た。