第36章 【深緑色】華と蜂のマリアージュ
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どんなに長い夜でも朝は来る
これ程に朝を待ち遠しく思ったのは初めてかもしれない
待ち遠しくて早起きするなんて
なんだか遠足待ちの子供みたいだ
隠す必要のない笑みを乗せて落とした視線
留まった先の彼は未だ夢の中
「しょーぉと?」
なんだかんだで
昨夜はいつの間にか眠ってしまっていた
『何があったんだ?』の返事は最後まで話せたっけ?
蕩けて形が曖昧になってしまった
数時間前の記憶を浚いながら焦凍の頬をつつく
昇りきってしまった日に溶けてしまいそうな白い肌
枕に埋もれた火傷の痕の代わりに
右側の頬を撫でれば擽ったそうに身を捩る
こんな焦凍は珍しい
「可愛いから
もう少し寝かせてあげよっかなー…」
なんたって体育祭の後だもんね
ハイスペックな焦凍くんも
流石にお疲れだったみたいだ
今は隣に居てくれる事がただ嬉しい
直接差し込んでくる日に目を細めながら手を伸ばして
ベッドの側に堕ちているであろうシャツを
手探りで引き寄せた。
「ご飯、何作ろっかな…
やっぱ和食かな…?」
綿あめみたいな独り言
流石にお蕎麦はないよね…なんて笑いながら
シャツに腕を通す
睡眠時間は決して十分じゃなかったけれど
久々の一人じゃない朝に
浮ついた体は軽々とベッドから腰を上げた…ハズだった。
「どこ…行くんだ?」
寝ぼけ眼の割に強い力
左手首をしっかりと掴んでいるのは
間違いなく焦凍の手
ちょっと乱れた髪は紅白の境を曖昧に
反対側の手で枕を抱いたまま
切れ長のオッドアイは半分しか開いてない
こんなに可愛いのに
光を受けて鎖骨に堕ちた影が妙に色っぽくて
もう、なんなのこの人
「……どうした?」
「いあ…おはよ…ぅ。」
ニヤけた顔を必死に逸らして
空いた手で両目を隠す
熱いのは掴んだ手か、掴まれた手首か
とにかく熱かった
私の照れる基準がわからないと彼はよく言うけども
今日ばかりは、私も激しく同意だ。
なんでこんなとこで赤面してるんだろう
「えーっと、ご飯作って来るから
離して貰えると嬉しい、な…。」
顔を逸らしたままの言葉は
説得の「せ」の字もなかった。
離して貰うどころか
起きかけた身体は再びベッドの中へ…
しょうがない
きっと私の顔に
「そうして欲しい」と書いてあったんだろうから。