第36章 【深緑色】華と蜂のマリアージュ
腕の中、見上げてくる瞳は
もう半分しか開いてねぇ
体育祭に参加してないとは言え
今日は散々走り回らせちまった
聞けばかなりの診察もしたらしい
そりゃ
眠たくもなんだろう
「とりあえずベッド行くか?」
髪を撫でながらそう言うと
ゆるゆると振られていた頭はピタリと止まり
返事の代わりに腕に力が込められた
絶対離す気はねぇと
無言で訴える力にこっちの頬は緩む一方だ
(運べと…随分な甘えただ。)
らしくない要求がありがたい
願いを聞いてやれるってのは
罪悪感を拭うのに最も適した行為だ
ハイリの為なのか俺の為なのか
既にわからない行為に息を漏らし、抱え上げる
二週間ぶりの部屋
俺を包む香りはハイリと同じモンな筈だってのに
既に懐かしさを感じた。
幼い頃
私を抱きかかえて
ベットへ運んでくれる大きな手に
狸寝入りしながら小さく笑ったのを思い出した。
あの時も帰って欲しくなかった
起きてたら宥められるだけ
あの頃の私は幼いながらに
自分の状況を理解してて
だから
寝たふりをしては消太くんの服の袖を握りしめていた
そうすれば帰るに帰れなくなるって
理解してたから
今思えば、けっこうずる賢い子供だった。
そんな私は高校生になった今でもずる賢い
(寝たら帰っちゃう気がする…。)
ここ二週間、寂しさを我慢していた反動か
「帰る」の一言が怖くてたまらない私は
ベッドに横たえられた身体をすぐに起こした。
帰るつもりなんてなかったのかも
ただ一歩足を引いただけだったのかも
だけど
帰る可能性を少しでも下げたくて
私の腕は勝手に伸びた。
消太くんを掴んでいた時よりも大きくなった手が
離れていく腕を掴む
「焦凍…。」
間違いなく私の行動なのに
どこかその光景を客観的に見ている様な
そんな、不思議な感覚だった。