第5章 【桜色】桃色診断書
~Sideハイリ~
悪いけど、私は悪くないと思う。
「……なんでそうなるの!?」
何がどう転べばそんな誤解が生まれるんだろうか。
床に押し倒されたままこんな会話
絶対おかしいのに叫ばずにはいられない。
気持ちがバレることはあっても
勘違いされる要素がどこにあるのかわからなかった。
それでも未だ誤解が解けていないのか
覆い被さったままの轟くんは
不信感をあらわにして細めた目をぐっと近づけて囁く。
「じゃあお前、誰の彼女になりたいってんだ?」
こんな状況でも
その仕草が妙に色っぽく見えて
ドキドキしてしまうのが悔しい…。
一瞬、とまではいかなかった
覚えがあるフレーズを思い返す事、十数秒
一つの結論に辿り着いた私は目一杯睨み上げた。
「……もしかして、手紙読んだ?」
「……………最後の一文だけだ。」
バツが悪そうに目を逸らす姿は
なんだか親に怒られて、ふて腐れた子どもの様だ。
最後の一文…
読まれるのは確かに恥ずかしいけれど
こんな誤解を招く位ならそんな事は言ってられない。
ここに来て妙に肝を据えてしまった私は
先程引き抜いた便せんをポケットから取り出して
目の前へ突き付けた。
「どうせ読むなら全部読んで!」
ゆっくりと身体の上に掛かっていた体重が
理不尽な溜め息と共に遠のいていく。
遂には引き起こされて、
向かい合った状態で膝の上に乗せられてしまった。
「あの、何で…?」
「お前の顔見てたら読みづれぇ…。」
誘導するように後ろ頭を押さえて
彼の肩に顎が乗る。
「成程」と小さく呟き大人しくしていると
後ろでカサリと紙が擦れる音がした。
静かな部屋には辺りの生活音がよく響く。
ドアが閉まる音や、パタパタ歩く音
そんな中でこの部屋に響いているのは秒針の音だけ。
そんなに長い手紙じゃない。
待つ時間はそう長くない筈だった。
なのにいくら待てども反応が無い。
しびれを切らした私は堪らず声を上げた。
「あの、もういい…?」