第36章 【深緑色】華と蜂のマリアージュ
かぷりと音が聞こえそうな程
躊躇なくハイリの棘は立てられた
鎖骨に、肩に、首に
最期に耳たぶを噛まれ
ピリと走った甘い痛みに
轟の中で何かがキレた
ああ、もう
いくらでも堕ちてやる
例えそれが底なし沼だったとしても
繋がったまま
棘を立てられたまま
男は据えた目で微笑む
やられっぱなしで済むと思うなよ?
その意を視線に乗せて
ツィ…と上がった口端から覗く牙が淡く光った
「ハッ…随分と、挑発的だな?」
自分に寄りかかっていたハイリの躰を
壁に貼り付ける
ゆたりと弛んでいたシャツが張られ
パンと強調されたのは二つの丘だ
淡い光の反対側に堕ちた影が
その大きさを物語る
どこぞの砂糖菓子より甘い果実
この布の下にソレがある
ドクリと打った下半身の脈に
男は舌を舐めずった
(欲しい…)
犯しながらも全てが欲しい
視線を絡めるだけで締め付けて来る
これだけ感じて
味わっておきながらまだ欲しい
こんなにも喉が渇く
触れなければ気付かなかったものを
誘われるがままに触れてしまったばかりに
飢餓を抑えられない
手折って何が悪い
戯れに誘った華が悪い
ミツバチが蜜を求めて何が悪い
細めた瞳をスイと近づけて
反論しかけた口を塞ぐ
離すが否や
打ち付ける腰はそのままに
男は牙を剥きだした。
「ぁ、まって…しょ…」
「待てねぇ…ッ」
もはや獣
獣が絹を剥ぐのに四肢を使うだろうか
答えは否
牙にかかったボタンが引きちぎられ
カツン、と数回音を立てフローリングを転がっていく
露わになった肌にかぶりつき
牙を立て舌を這わせていく
柔らかな肌を覆うレース地を引き下ろせば
既に尖った桃色の突起
歯を立てて舌で潰す度に
子猫のような甲高い声が上がった。
「んゃぁ…ぁっ、ぁっ、もぉっ…っ」
「もぉ」と言いながら包まれる
困った子だと
まるで母親のように頭を抱きしめる
これがハイリの毒なのだと
わかっていてももう遅い
とっくに中毒なのだから
ならば喰らい尽くせばいい
満たされるまで。
首をカクカク揺らし微笑む華は
犯される程に光悦を口元に宿した。