第36章 【深緑色】華と蜂のマリアージュ
もうどちらの意思ともわからない
蜜部に触れた針先がぬちぬちと音を響かせて
最奥へと挿し込まれていく
掻き分けるそばからうねり絡みつく
その快楽に轟は天井に向かって息を吐き出した
薄墨色の天井がハイリの濡れ色の声に
徐々に白んでいく
「んぅ…ンッ…ぅう…っ」
熟した桃のような香しい声
快楽に飛ばされてしまいそうな意識を
瞳を閉じて繋ぎ止める
いや、集中したかったのかもしれない
触感以外の感覚の全てを閉じて
ハイリだけを感じるために
なのに昼と同じように
少女の指がその瞼を押し開いた
「しょぉとっ、何、かん…がえてるの?」
途切れ途切れに紡がれた
これも何かの呪文だろうか?
私のこと以外考えちゃダメだと
柔らかな掌が頬を包む
煙る視野は狭くて深い
ドアを叩く風の音を遠くに
淫らな水音を近くに
二種類の音を聞きながら
轟は狭い世界にハイリを映した
(飲まれ、てくみてぇだ…。)
突き上げる度に柔らかな身体が上下に揺れる
まだほとんど布を纏っているというのに艶めかしいソレ。
今、この時まで
脱がしてなかったことに気付かないほど
夢中になっていた
喰らってんのは間違いなく自分だってのに
今日はどう足掻いても敵わない気がする
その証拠に
亜麻色の華は今だ余裕を残し
そっと首へと指を掛けてくる
ネクタイを緩め
ぷつりぷつりとボタンを外す
悪戯な上目遣い
見つめ合うだけで自身の質量が増す
絞り取られるかのような締め付けに
声は息と共に押し出された
「お前の事だ…
お前の事しか考えてねぇ」
昼も夜も
戦闘の時でさえ
お前の事ばっかだ
浅い息をつきながら
額を擦りつける
「ほんと、かな…?」
間近で光るこの瞳に疑いなんて微塵もない
垣間見えるのはほんの少しの悪戯心
俺をただ困らせるための疑問形
守った方が負け
攻撃は最大の防御だ
「本当だ…。」
押して引いての駆け引きが
ただの押し合いとなる瞬間
嬉しそうに細められた亜麻色の瞳に
背筋が粟立った。