第36章 【深緑色】華と蜂のマリアージュ
一緒にいたいと袖を引いた時は
本当にその一心だったんだよ
今日、色んな焦凍を見て
色んな表情を見て
その笑顔を見て私も笑えるんだと
そんな当たり前の事に今更、気付いたの
だからもっと見たくなって
一緒に居たくなったんだよ
だけどね
驚いた表情に悪戯心が芽生えたの
戸惑う表情に
優越感が芽生えたの
だってこんな焦凍の表情
知っているのは私だけでしょう?
だからね
もっと、見たいなって
どこにも行って欲しくないなって
独り占めしたいなって
そんな我儘な気持ちが芽生えたんだよ
芽吹いたその華の名
独占欲
虜にして喰らう肉弁花
次から次へと花開く
ほら、また一つ…
「ハァッ…どういう心境の変化だ?」
グッと獣のような瞳が寄せられた
挑発的に細められた二色に脈が躍る
掛かる吐息より
そこから覗く牙のような犬歯に
固い蕾が綻んでいく
こんな距離、今に始まった事じゃない
それ所かいつもの距離と言っても良い
それでも
高揚に全身が沸騰する
グラグラと煮え立ってしまう
熱に当てられた華は
芯の抜けた躰で壁に凭れながら
何かに憑かれたように微笑んだ
いつもと違う自分に戸惑っているのだろう
笑う度に瞳を揺らす大好きな彼
いつもの涼しげな表情など何処にもない
ギラついた目で射抜いてくる
それが堪らなく愛おしい
「こーゆーの、嫌?」
「ンなわけあるか…っ」
触れる部分全てが熱い
太腿に擦りつけられた熱に
呼応するように熱の中心に気泡が起こる
ゴポ…と
熱されて起った沸騰の気泡
熱されて焦がされて
水飴の様な蜜がカラメルになってしまう前に
全て食べ尽くして欲しい…
軋む帳に浮かぶのは
今まさに自分を喰らわんとしている男の姿
「じゃぁ…はやく…ね?」
抵抗する気など更々ない華は蔦を伸ばす
メスの香りを漂わせ
快楽の入口へと誘っていく
固く猛った熱の塊
指先に触れる脈はもう滾りきっている
(自分でもわからないんだよ…。)
どうしてこんなにも欲しいのか
ただ外れた箍が
諸々を壊していく
次々と欲を花咲かせる
開いた華の数はきっと
今まで抑え続けてきた女の我儘の数