第35章 【空色】勘違いパンデミック
「…――ってのが僕の見解なんだけど…。」
日の落ちた教室内
緑谷の予想は事実とさして相違はなかった
一同は今日何度目かの溜息をつく
なんとも切ない結果だが
少なくとも爆豪の誤解は解けたのだ
きっとここが彼のスタートライン
そう、きっとここからなのだ…と。
――――……
自分へ向けられたクラスメイトの思いなど
クソくらえだ。
揺れる電車内で全意識を耳に傾けていた爆豪は
一つの着信音に目を開いた
イヤホンから注がれたその音は
間違いなくLINEの受信音
掛けている音楽は流したまま
指はその通知を払い消した
表示された文面など入らない
その名だけで心臓が音を立てる
あれだけの事をして
今後どんな顔して会えばいい
(…どこまでもとぼけてやがるアイツが悪ィ。)
いくら心の中で正当化しようと
指はLINEのアイコンに触れる事はなかった。
自分の欲に対する猜疑心
冷静さを欠いて突発的に出た行動に
嫌気がさす。
(これじゃ、舐めプ野郎と同じじゃねぇか。)
舌を打ちながら降車する
見上げた空はもう暗く
西の空に仄かな茜を残すのみとなっていた
今日は晴れていた筈だが
この時間帯の空はまるで曇天の様だ
僅かな西日を受けた薄雲は
まるで雨雲のように影が差している
気分一つで景色も変わる
「あ、おかえりー。」
ようやく触れる気になったのは家についてからだった。
優勝したにも拘らず
母親は至っていつも通り
あんな表彰式を見たのなら
祝いなんてしないだろう
少しだけ落ち着いた気分に
やる事が無いからと理由を作り
少年はスマホを手に取った
開いて飛び込んできた字面
マヌケかつハイリらしい内容に息を漏らす
【早く友達だって認めて貰えるようになるよ!】
流石KYか
あれで伝わってねぇんかクソが
安堵と無念
どっちが大きいのかわからない
ただイラつくと、胸の内で呟きながら
文字を打つ手は滑らかだった
重かった胸も軽い
【上等だコラ…全力でブッ潰す!】
画面を閉じてもう一つ鼻で笑う
上げた視線、部屋の窓に映る爆豪の顔は笑っていた。
「こっからだ…」
今度こそ、ここからだ
そう簡単に諦められるくらいなら
最初から男付きの女になど惚れていないのだから…と。