第35章 【空色】勘違いパンデミック
―――――……
「ね、見て見て!『全力でブッ潰す!』だって
私やっぱり嫌われてる!」
「爆豪ならそれくらい普通だろ。」
「そうなんだけどさ…
ってホントどうしちゃったの?
はっ……………まさかッ!!?」
「……………違ぇ。」
勘違いを重ねに重ね
クラスメイトを巻き込んだクラス内感染は
なんとか大流行となる前に終幕を迎えた。
だがまだだ
今日と言う日はまだ終わっていない
回収されていない宣言はもう1つ
『体育祭で一先ずケリ付ける。』
果たして轟の中で
ケリとやらは付いたのだろうか?
薄鼠色の外観も今、この時間では群青色に
見慣れたマンションの前
ベンチに腰をかけてもう随分経つ。
今日、整頓を始めた二人の胸中は
いま如何ほどか
冗談に笑いながら
知らぬフリ
気にしないフリ
拙い恋の駆け引きは
本日最後の演目だ
押すが強いか引くが強いか
どちらも切り出す事のできないまま時だけが過ぎていく
(このまま終電来ちゃえばいいのにな。)
(そろそろ帰らねぇといけねぇんだがな…。)
会話は途切れることはなかった
だが
仕掛けることなく、残す所1時間
先にカードを切ったのは轟だった。
「そろそろ帰えらねぇと…な。」
「うん…。」
緑谷戦を経て一つ変わった少年は
迷いを抱えたまま立ち上がる。
ハイリには干渉しない
父がそう断言したとは言え
どうしても腑に落ちないあの言葉
『あれは…名刺のようなものだ。』
ケリがついたと言って良いものか
迷いが行動に制限を掛ける
幸いハイリは何も聞いてくる気配はない
帰る自分を引き留めようとする気配もない
ならば一先ずは
(帰るべきだ…。)
少年は努めて冷静に
引くことを選択した。
名残惜しさを押し殺し
念のためと自分に言い聞かせて背を向ける。
だけど今日変わったのは少年だけではない
控えめに引かれたブレザーの袖
立ち上がる気配のない少女が俯けていた顔を上げた
誘う言葉が
小さくとも凛と響く
「今日は…一緒にいたい…。」
意を決した瞳に
選択どころか
目も意識も
轟の時、全てが奪われた。