第35章 【空色】勘違いパンデミック
すっかり日も長くなった体育祭の夕暮れ時
長い影が二つ寄り添って歩く
繋がっているのは影だけじゃない
キュッと握られた右手と左手
焦凍が実家に変えるようになってからの二週間
下校する時は大体繋ぐのがお決まりとなってしまった
さっきの出血も止まったし
痛みももう、殆ど無い
なのに焦凍は
気にしてばっかりだ。
「なぁ…さっきの話だが…」
「うん? なぁに?」
「やっぱ違うんじゃねぇか?」
気にしてるじゃなかった
否定してばっかりだ。
散々説明したのに納得してもらえない。
一体どこに矛盾があるというのだろうか…?
「…でも焦凍はあの場に居なかったからね!」
『なんで噛んだのか』と聞いたら
爆豪くんは『血道を上げるな』と言った
恋にうつつを抜かすなと
要するに
色恋にかまけてばかりの私自身が気に入らない
そういう意味なのだろう
それなら合点がいくもん
「ちょっと私の行動って焦凍に依存し過ぎてるからね。」
「そうか…?」
「うん、不純な動機だよね結構。」
なんたって相手は爆豪くんだ
人にも自分にもとっても厳しい彼なら
そんな私に嫌悪するってのも
わからなくもない
「よしっ! 私、頑張る!!」
嫌われてたって事実は結構凹んだけれど
それでも色々と面倒見てくれた
爆豪くんのことだ
これからもなんだかんだと言いながら
世話を焼いてくれるんだろう
「ちゃんと成長して、認めてもらえるようになるよ!」
「ダチに対する意気込みがすげぇな…。」
「そりゃ、焦凍が素直になったんだもんっ私もならないと!」
「んじゃ素直に…その意気込みをLINEしてやれ…。」
「どした? 焦凍が爆豪くんを気に掛けるなんて珍しい!」
頷きながら取り出したスマホ
文字を弾く度に頬が緩む
焦凍の変化が嬉しいなんて
文字を打つそばから彼一色な私は
スマホに向かって照れ笑い
文字を一文字打つたびに
隣の彼にクスと笑う
「いや………なんか、俺にも良心があったみてぇだ。」
「元々優しいよー?」
長い影が伸びていく
やっと終わった体育祭
一つの壁を越え
また走っていく
小さな目標はきっと跳び箱のロイター板だ
どんな壁だって飛び越えてやる
そう、思わせてくれる一日だった――…。