第35章 【空色】勘違いパンデミック
轟とハイリが教室を出て
息を詰めていた各々はやっと大きく深呼吸をした
吸って吐いてを繰り返す
空気の旨さが
如何に緊張していたのかを示していた。
今日一番の功労者である切島は
轟の机に腰かけて肩を落とす
苦く笑う上鳴はそんな切島の肩を叩きながら
誰にでもなく問いを投げた。
「にしたってよ…ハイリちゃんにどこまで伝わったんだ?
爆豪のあれ、あの意味なんだ?
“地道に開ける”だっけ?」
違うと、もうツッコんでも良い筈なのに
誰もツッコまない。
疲れたのだ
皆疲れている
あの3人のやり取りは
見ている方が疲弊してしまう
何故だかいつもより教室が広く感じるのは
皆が後方に集まっているからだろうか
窓の向こう側
廊下が赤く染まりきっているのがよくわかる
そうだ下校時刻だった
背を押されたかのように八百万が口を開いた
「“血道を上げる”ですわ…恋や趣味に熱中する事、皮肉を込めた意味でそれらに熱意を持ってるという時にも使います。
爆豪さんは後者の意味で使われたのだと…。」
「なんでも同性愛に繋げてんじゃねぇってか?」
「恐らくは…。」
成程と、頷く一同
聞いてはいても、受け答えするのは質問者のみだ。
「でもよ、ハイリちゃんはそう受け取って
……ねぇよな?」
「ええ…はっきりと仰ってましたわね。」
皆の記憶は遡る…というより
巻き戻った。
そう、ハイリは轟に対して
確かにこう言っていたのだ
『色恋にうつつを抜かしてんじゃないって。』
しゅんと項垂れながら
捨てられた仔犬のような目で
あの意味は…なんなんだ?
今度は何を勘違いしてるんだ彼女は
ある者は棚に肘を掛け
またある者は他人の机や椅子に腰を掛け
ちょっとラフではあるがもうクラス会議だ
フムと唸った議長が意見を仰ぐ
「あれはつまり…どういう意味でしょう?」
そして一人が声を上げた
挙手しなかったのはラフな会議だからじゃない
手を上げられなかったからだ
「僕が思うに…」
包帯の巻かれた左腕と
肩に吊られた右腕
皆が腕を通すブレザーも
頼りなく肩に掛けられているのみ
挙手なんてした暁には
滑り落ちてしまうだろう
少年、緑谷がゆっくりと口を開く
「多分…こんな感じなんじゃないかな――――…」