第35章 【空色】勘違いパンデミック
「危険予知女だって。」
「危険…?」
「うん…KYってそういう意味だよね?」
「………そう、だな。」
違う、そっちじゃない
轟はよくわからずとも
クラスの面々は心の中でツッコんだ。
「KY」すなわち「空気が読めない」
だが
与えられた蔑称を見事に回収するハイリに対し
誰も口に出してツッコむ事など出来なかった。
しょうがないのだ
医療の現場でも行われている危険予知トレーニング
略してKYT
「KY」が「危険予知」であることに変わりはないのだから
危険を察知し
身を守ろうと必死だった
ハイリの解釈もまた
間違っていないのだから…
日本語とは…
略語とはまこと恐ろしい。
ゆるゆると空気が和んでいく
辺りは桃色に
花までほわりと舞い出した
オロオロさせるのもだが
ほのぼのさせるのも
いつもこの少女
流石、癒し担当だ
今日も筋の通った勘違いは絶好調
「あと、爆豪くんの好きな人焦凍じゃなかった
私の勘違いだった。」
「そうか…。」
「ぅん…あとね色恋にうつつを抜かしてんじゃないって。」
「お、おお…。」
「なんかね、嫌われてたみたい。」
「それは…ねぇんじゃねぇか?」
「だって噛まれたんだよ?
普通噛む? クラスメイトをさ。」
「………………。」
珍しく
爆豪を庇いつつあるというのに
口を尖らせて己が意見を主張するハイリに
轟は内心溜息をついた
(嫌いな奴の方が噛まねぇと思うが…。)
今のハイリに何を言おうが
聞きはしないだろう
頑固な奴だから
轟は思う
何故だか急に忙しくなった気がすると。
(これも後でだな…。)
「とりあえず、帰るぞ?」
「うん…。」
爆豪に嫌われたという思い込みが
今になって堪え始めたのだろう
ハイリの表情はあまり芳しくない
日本語は気を付けて使うべきだ
出来るだけストレートに
(特にハイリには…)
気を付けなくとも十分ストレートだと
自覚をしていない少年がここに一人
固く決心した。