第35章 【空色】勘違いパンデミック
一人目が肩を抑え付けた
二人目は胴を掴む
抵抗をみせる爆豪に
一人、また一人
それはどんどん嵩を増し
段々と人製の小山が出来上がっていく
多勢に無勢
怒りつつも動揺していた爆豪は
瞬く間にハイリと轟、そして早退した飯田を除く
計17名の下敷きとなっていた。
「退、きやがれ……っ
俺ァ今、すこぶる機嫌が悪ィ…。」
しかしやはり主席合格者
身体は押し潰されようとも
心が押しつぶされることは無い
怒気はいつもよりも静かなものだ
怒って何が悪いと言わんばかりの目が下から見下してくる
それが的を得ているから困ったものだ。
冷静に考えてみよう
なにも知らないハイリに確かに悪気はない
しかしだ
爆豪はもっと悪くない…
事の顛末を知っている面々からすれば
彼は一番の被害者で
加害者を強いてあげるなら
やはり…ハイリと言えるだろう
ヒーローの卵たちは各々考えた
そして導き出した
皆を代表して勇者・切島が提案する
「爆豪…ここで話せ、な?」
爆豪を咎める事も出来ない
かと言ってハイリを見捨てる事も出来ない
結果、自分たちが行く末を見守る…と
勿論それで爆豪が納得できるのなら…
が大前提だ
(爆豪が納得できるとは思えねぇが…)
だが爆豪は納得した
床に伏す爆豪の目の前に膝をついたハイリに
納得せざるを得なかった
よくよく見れば亜麻色の仔犬は
今やちょこんと正座をし、膝の上に両手を揃え
怒られる準備を整えており
いつもピンと立っている犬耳は
今日一段と垂れ、ピタリと頭についている。
(((犬かよ!!!)))
心の中にも拘らず
全員が同じタイミングでツッコんだ
おずおずと上げられた丸い瞳
一動あるごとに跳ねる肩
びくびくと窺う様はもう「おすわり」じゃない
「伏せ」だ。
こんなものを見せられて
傷つけようなど思う人間がいるだろうか?
いつぞやの担任の言葉がよぎる
『お前ら、何度叱っても一心に尻尾を振って
すり寄って来る仔犬に刃を向けることが出来るか?』
出来ない、出来る訳がない
本当にどこまでもどこまでも犬の様だ
そう、可愛いとは正義なのだ
(((最強じゃねぇか…!)))
爆豪含めて総勢18名
ヒーローの卵たちはここに学んだ。