第35章 【空色】勘違いパンデミック
爆豪の腕に首を捕らえられながら
ハイリは記憶の引き出しを
片っ端からひっくり返していた。
自分が何かしたに違いない
じゃなきゃこんなに凄むわけがない
首に回された腕が重い
肩を掴む手が強い
痛い、痛い、痛い
指が食い込むほどに痛感する
(確定だ…私、絶対何かやらかした。)
肩を離れた手が頭に乗せられて
ハイリの頭を掴む
いつもキレている爆豪だが
出てきた言葉がいつもと違うという現実を突き付けていた
「よォし、良い子だ
行くぞウスノロマ。」
上がる角度は90度
今日は瞳の代わりに口角が吊り上がっている
見下す目は依然として見開かれ
下等動物を嘲笑っているかのよう
なんだかいつもとちょっと違う
いくら仲良しの爆豪と言えど
ハイリが怯えるのも致し方のない事だった。
「あの……ここじゃだめ?」
「ぁ"あ"ン?」
「…や、だって…」
今度こそ喰われてしまう
その思考に至った理由は今尚ハイリの手の中に握られている
スマホの中にある
【名実ともに1位くんの事だけどさー
なんで噛まれたのか確認した方が良いよ?】
なんと言うタイミング
こんなLINEが無ければ忘れていたものを
そうだ
一度喰われかけたのだ
こんなに怒っている爆豪と二人きりになったら
また噛みつかれるかもしれない
今度こそ喰い破られてしまうかもしれない
血しぶきを想像しては身を震わせ
必死に抵抗を見せるその様
まさに怯えきった仔犬
獅子に首根っこを抑えつけられた仔犬
ハイリの頭をまるでボールの様に握っていたニトロ香る手は
今まさに襟ごと首を掴み
逃げられるもんなら逃げてみろと弄んでいるかのようだ。
逃げようにも
いつも隠れ蓑にしているご主人様は
只今、用事でお出かけ中
借りる威のない仔犬は
垂れ下がった尻尾をピンと上げる。
(良し、ここは自力でなんとかしよう。)
自分だってヒーロー科の生徒なのだ
今日覚醒したばかりの少女は意を決す
言葉はフイにではなかった
元々聞く予定のものだった
そう、元から聞く予定の言葉で気を逸らしたかった
それだけだった
「っそれそうと、爆豪くん!
なんで噛んだの!?」