第35章 【空色】勘違いパンデミック
(爆豪くん長くなりそうかなー…
話聞きたかったんだけどな、どうしよっかな。)
まさかその爆豪の怒りの原因が
自分だとは夢にも思ってない少女がここに1人
勝手に待ちぼうけをくらっていた。
『体育祭後、俺も話してぇことがある。』
あの約束が故帰れない
もう一つ言ってしまえば自分も聞きたいことがある
加えて轟が用事を済ませてくると
教室を出て行ってしまっては
もう待つしかあるまい。
久方ぶりのA組の机に頬杖を突き
廊下から響いてくる爆豪の声に耳を澄ます
どうやらかなりご立腹のようだ
(焦凍が先に帰ってきちゃったら
待たせることになっちゃうなー…。)
それは避けたい
とりあえず爆豪にLINEでも送るかと
取り出したスマホ
そこに落ちた影は轟のものではなかった。
ぬらり、音も気配もなく現れたその実態
呼ばれた名に顔を上げる
「ハイリ……」
「お、爆豪くん終わった? 今ちょうどLINEを――…」
するとこだった
そう言いかけて視線が合うより早く
少女の表情は笑顔のまま凍り付いた。
何故なら自分の名を呼んだ男の表情は
今までにない怒りを湛えていたからだ。
(怒ってる、まだ怒ってる、ものすっごく怒ってる!)
その怒りは色に例えるなら深紫
暖と寒の中間なんて単色じゃない
赤と青が交じり合って深く深く
渦巻いて更に複雑に
顔だけに収まらず言葉にさえ滲み出る
「ちょォツラ貸せや…なァ?」
有無を言わさぬ低い声と表情
笑うその顔は未だかつて見た事ない程爽やかなのに
引きつる頬のすぐ上には青筋が
目元には影が覆っている
ハイリは察知した
“個性”ではなく動物の本能でだ
危険だと
命の危機だと
頭が全身に警笛を響かせる
勿論出て来た言葉は自己防衛本能に沿ったもの
否定系の接続詞
「ぁ…ぃゃ、でも…。」
だがそんなもの
今の爆豪にしてみれば
無いに等しかった
「テメェにゃゆーっくり話してェ事があんだよ
なァ、おめェもあんだろ?
俺ら仲良しだもんなァ?ハイリ?」
「ぅ……ハィ…。」
こくりと項垂れた亜麻色の頭
仲良しと言われたら断りずらい
一体どうしてしまったのか
一つだけ確かなことは
この怒りの原因は間違いなく自分だ…と言う事だけだった。