第34章 【空色】傷跡のキセキ
「ハイリ…。」
黒曜と翡翠
宝石の様な瞳と視線が絡み合う
垂れた目尻までなんだか子供みたいで
ホッとしたような
それでいて、泣き出してしまいそうな
いつの間にか触れてた指が
いつも通り焦凍の目元を撫でた
「やっと呼んでくれた…。」
やっと呼んでくれた
ホントにやっとだよ…
肝心な時にいつも呼んでくれないのは
私に心配をかけない為
わかってるけど
わかってても辛いんだよ?
返事の代わりに伸びてきた手が首の後ろに回されて
引き寄せられると同時に
右肩に小さな頭が乗る
掠れた声は聞き覚えのあるもので
だけど言葉には脈絡なんか全然なくて
「あの言葉、お母さんのだった。」
「うん。」
前にもあったよね
こんな事
“あの言葉”が何を指すのか
実はよくわからなかった。
ただ状況があまりにも似てたから
勝手にあの日の言葉かな?って思う事にして
同じようにって
空いてる左手で背を撫でながら
白い髪に頬を寄せて
赤い髪を撫でた…
「少し、わからなくなっちまった。」
「うん。」
同じ…ではないかな
あの夜はもっともっと緊張してて
心臓が壊れそうだった
微かに震える肩は
見ないフリ
気付いてないフリ
絶対フリだってバレてるけど
それが思いやりってものでしょう?
あの日も
似たような事を考えた。
だからなぞる様に
同じような言葉が出てきてしまう
「良いんじゃないかな。」
言葉にすると
絡まった糸も意外とスルリと解けてくものだ
解けてまた一つ見つける固い結び目
あったりまえだ
そんなに人生甘くないよ
簡単に決まるなら
こんな楽なことは無いよ
迷う事は、悪い事じゃない
「それでなりたい自分が見つかるなら
いくらでも悩んで良いんじゃないかな?」
私だってまだ
具体的にどうするか決めた訳じゃないんだよ?
支えたいと思ったよ
どんな形であっても
だけどどんな形かは
これから考えて行けばいいんじゃないかなって思ってる。
葛藤の末、見出した出口は
きっとゴールじゃない
そこからなんだよ
やっと今、スタートラインなの
でもね
今までの焦凍があるから
今があって
今ここに居るから
これからの焦凍が出来上がるの
私もそうなんだよ
きっと皆
そうなんじゃないかな。