第34章 【空色】傷跡のキセキ
相変わらず絵文字もスタンプも無くて
文と言うより単語だったけど
飾り気のないシンプルな4文字が
すごく嬉しかった。
【会いたい】
やっと
呼んでくれたから
(…って、約束させたから…なんだけどね!)
それでも呼んでくれないよりずっといい
控室のドアの前で呼吸を整えて
乱れてるだろう前髪を手櫛で整える
胸に当てているこの手はなんだろう
私ってば緊張してるんだろうか
照れくささを隠すように前髪を引っ張ってみたけど
綺麗に切りそろえたばかりの前髪は、どう頑張っても私の目を隠してくれることは無さそうで
一人苦く笑いながらドアをそぉっと押し開いた。
「焦凍ー…?」
なんだか不審者みたいだとは思った
少しだけ開いたドアの隙間から顔だけ出して覗いた選手控室。
色調のないシンプルな部屋に並ぶのは
簡素なテーブルとイスだけで
そのどこにも紅も白も見当たらなくて
(あれ?)
もう少しだけドアを開いて一歩入る
すぐ横の長テーブルに置かれてるのは真っ白なタオルと
ミネラルウォーターのペットボトル…
うん、色味がなさ過ぎる
…じゃなくて
「焦凍…?」
部屋、間違えたかな?
なんて考えたけど
そんなはずがない。
なんたってさっきこの部屋に入ったばかりだ
そろりと部屋に身体を滑り込ませて
閉じたドアの先の紅白に驚いた
炎の“個性”に焼け焦げたジャージのまま
着替えもせず
壁に背を付けて片膝を立てて座り込んでいる
まるで就園後の幼稚園で
親の迎えを一人で待ってる子供みたいで
ぱくぱくと鳴る心臓を整える為
小さく息を吐いた
駆ける声は子供向けだ
「なーにしてるのかな?」
私なんだか今日、苦笑ばっかりだなーって
漏れ出た笑みを瞬きして差し替える
両膝をついて覗きこんだ瞳は
何か考え事をしているみたいで
決して笑顔ではないけれど、とても穏やかで
それだけで安心できた。
「しょーとくん?」