第34章 【空色】傷跡のキセキ
息を呑む気配が
後ろを見ずとも伝わった
だが返事は特に無く
動く気配もねぇ
ふと感じた違和感に
首だけで顧みると
合う事のない視線に
今まで感じた事のねぇ感情を感じ取った。
(動揺……?)
いつも上から抑えつけるような視線は
俺を見ちゃいなかった
ただ僅かに目を伏す様は
思案しているのか
戸惑ってんのか
俺の左目と同じ色の双眼は
右へ、左へ…もう一度右へ
言葉は無くとも
写真に対しての後ろめたさは十二分に伝わって来た
「あの写真はなんだ?
ハイリを、どうしてぇんだ…」
まともな返事が返って来るなんざ
期待はしてなかった
返って来たとして
鵜呑みにするつもりもなかった
これでもNo.2ヒーローだ
頭はキレるし
口も立つ
返って来るであろう
差し障りのねぇ返答をカードの様に頭ン中に並べ立て
そこからどう突っ込もうか
その辺りまでは考えていた
まさかこんな言葉が返って来るなんざ
予想だにもしてなかった
「あれは…名刺のようなものだ。」
「………は?」
問いを投げてから
初めて目が合った。
煌々と燃える炎
俺より高い背、デカい身体
逆光の所為だろうか
見上げた顔には影がかかり
上手く表情が読み取れねぇ
言葉一つ読み返してみても
往なされたって気もしねぇ
だがはあまりに突飛答えに
受け取ったこっちの背がフルと振るった
真っ直ぐ見下ろす親父との距離が縮まって
すぐ隣を通り過ぎていく
すれ違いざまにもう一つ付け加えられた言葉すら
一瞬意味がわからなかった
「俺が干渉するのはあの娘じゃない
お前だ、焦凍。」
淡々と
静かに
そこにどんな感情があるのかわからねぇ
だが嘘ではねぇんだろう
そうは思えど意味がわからねぇ
覚醒したばかりの頭じゃ
整理はつかず
小さく首を振り
騒ぎ始める頭に手を添える
(……どういう意味だ?)
付け加えられた言葉の意味はわかった
納得できねぇことも無かった
ただあれは理解できねぇ
『名刺のようなものだ。』
眉間にしわを寄せ
身体ごと振り返る
だがもうそこに親父の姿はなく
それ以上問う事は叶わなかった。