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【ヒロアカ】UAシンドローム【轟焦凍R18】

第34章 【空色】傷跡のキセキ




『緑谷くん…場外
轟くん――…3回戦進出!!』


審判の声が良く頭に響いた
見えた視界もクリアだ

肌を伝う汗の感触も
肌を撫でる風の感触も
いつもよりはっきりと感じる気がする

今までどれだけの情報を
俺は見落としてきたんだろうか

声を掛けられるまで
そんな事を考えていた


もしかしたら今なら――


「邪魔だ…とは言わんのか?」


コイツのエゴも
違って聞こえるんだろうか…


通用口入ってすぐの場所
腕を組んで待ち構えていた親父は
至極満悦のようだった。


「左のコントロール…
ベタ踏みまだまだ危なっかしいもんだが
子供じみた駄々を捨ててようやくお前は
完璧な“俺の上位互換”となった!」


揚々と歌う声はいつもより明瞭に
一挙一動が鮮明に見える

出てくんのは
いつもより機嫌が良いだけで
大して変わり映えのねぇ内容だ


「卒業後は俺の元へ来い!!
俺が覇道を歩ませてやる!」


だがそれでも
不思議と心は静かだった

差し出された手を払う事もしねぇ
ただ左手を握りしめ感情の波を確認する

静かで
ただただ静かで
あんのはそれだけで

今までの柵を全てその波に流せるかってぇと
静かな波が攫ってく筈もねぇ


「そんな簡単なもんじゃねぇ
捨てられるわけねぇだろう。」


そんな簡単に覆る程
軽い感情じゃねぇんだ

ただ……
あの時は
親父を忘れたってだけで

なんで今心が静かなのかもわからねぇ

だからそれが良いことなのか
悪ぃことなのか

少し、考えると言う俺に
親父が口を開く気配はなかった。




日光から人工的な光に変わりゆく細長い通路
横を通り過ぎたところで
背面に立ち尽くしている親父の気配を辿る

追ってくる気配はなさそうだと
息をついた瞬間

再び考えが蘇った


もしかしたら今なら――と


「親父――…」


今なら
冷静に問う事が出来んじゃねぇだろうか

結論が出る前に
足は止まっていた

足が止まる前に
名を呼んでいた

今なら、姉さんとの約束を破ることなく
確認する事が出来る

ここ二週間
ずっと抱えていた親父への疑念を
事を荒立てず問う事が出来る

問うつもりで出した言葉は
問いとは言えなかった

だが充分意味は成していた


「…写真
俺が持ってんだ。」


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