第34章 【空色】傷跡のキセキ
――いつの間にか、忘れてしまった……
ユラと揺らめいた若火は
瞬く間もなく焱炎へと形を変えた。
煌々と燃え盛る朱には
豪華絢爛という言葉がよく似合う
真朱から銀朱へのグラデーション
揺らめく度に色調を変える
伝説の神鳥の誕生を思わせるその朱に
会場は熱に包まれた
轟の左側の“個性”
父から継いだ“個性”
戦いにおいて絶対使わないと言っていた“個性”
炎熱
上がる温度が
凍てついた右側を溶かす
双眸に緑谷を映す轟の耳に
雄叫びに近い声援を上げる
父の声など入りなどしなかった
この声だけじゃない
今まで記憶の中を巡り巡って
耳について離れることはなかった父の声が
その姿までもが
今
この時は晴れていた
抱く思いはただ一つ
――俺だって、ヒーローに…
溶けた氷が一筋
轟の頬を伝い落ちていった
最も近くで熱風に煽られた男は
もう握る事すら困難な拳を握りしめた
僅かに震えた拳は武者震いか
この男もまたNo.1ヒーローを志す者
自分で焚き付けておきながら
壮観だとも言うべき光景に
引きつる口は自ずと笑みを作る
言葉はひとりでに漏れた
「凄…」
「何笑ってんだよ」
炎を纏う左手で拭われたオッドアイ
真っ直ぐに向けられた憑き物が取れたような瞳
間違いなく初めてだ
今初めて
轟の視野に収まった
実感した緑谷は喉を鳴らす
今まで見据えられていたのは自分じゃない
その向こう側の更に奥にある父の影
その証拠に
自分に向けられた二色の視線には
暗も冷もなく
いつも凍てついている轟の声音は
どこか柔らに感じた
「その怪我で…この状況でお前…
イカレてるよ。」