第34章 【空色】傷跡のキセキ
緑谷の声が反芻する
揺れてんのは頭か心か
「君の境遇も君の決心も
僕なんかに計り知れるもんじゃない……」
「何でそこまで」と問う俺に
緑谷は「期待に応えたい」と答えた
その期待ってのはつまり
オールマイトのって意味だろ?
この男を動かしてんのがNo.1ヒーローなら
俺を動かすのは間違いなくあのクソ親父だ
その呪縛から逃れてェんだよ
ハイリにまで危害が及ぶ前に
断ち切りてェんだよ
緑谷を
オマエをお母さんだけの力でぶっ倒して
アイツを完全否定して
だから…
俺は…
「でも、全力も出さないで一番になって
完全否定なんて
フザけるなって今は思ってる!」
大して痛くもねぇ衝撃に揉まれながら
思い出すのは追いやったばかりの昔の記憶だ
親父のようになりたくはなかった
幼い俺を庇う母
そんな母に手を上げるヒーローにだけはなりたくなかった
自分で母を追い詰めておきながら
捨てるように病院へと閉じ込める
そんな男にだけはなりたくなかった
記憶の中の母はいつだって泣いている
それだけでも耐え難いってのに
次はハイリか?
今度はアイツをどうする気だよ
どこまでやりゃ気が済むんだ
早いとこ断ち切らねぇと…
だから俺は
俺は…
「親父の…力を―――…」
「君の!力じゃないか!!」
完全否定
その言葉を掻き消す緑谷の言葉に
呑んだ息が気道を塞いだ。
(――――っ…)
サワと産毛が粟立っていく
ドッと波打ったのは血液か心の臓か
初めてにじみ出てくる感情の扱い方がわからず
惑う頭が拒絶する
出てくんな
関係ねぇ
必要ねぇ
だけど
待っていたかのように
ハイリの声が聞こえてくるんだ。
あの
交わしたばかりの約束が――…