第34章 【空色】傷跡のキセキ
いくら転ぶとわかっていても
転んだ時の痛みが軽減されるわけじゃない
何度怪我を重ねても
その痛みに慣れる事なんて決してない
寧ろ知っているからこそ恐怖して
躊躇するものだ
恐怖に自ら飛び込む緑谷くんは
その先に目的を持っているんじゃないかな
それは勝利なんか陳腐なものに思えるほど
大きなもので
きっと彼の頭には今
それしか無くて
多分それは
ううん
きっとそれが
ヒーローなんじゃないかな
焦凍に向かって必死に叫ぶ緑谷くんの姿はもうボロボロで
骨だけじゃない
神経だって筋だって
とっくに限界を超えているはずだ
彼の言葉は
焦凍に届くのだろうか
(届くと、いいな。)
素直になって欲しいと願った
それだけじゃ足りなくなって伝えた
父親を許せと言ってもきっとそれは無理だから
せめて
その固い殻を壊して欲しかった
覚悟を決めて初めて気付いたよ
貴方の視野がただ狭まっているだけだって事
だから他に関心が向かないって事
だから居るよって
私じゃない誰かが言ってあげないと
貴方は周りを見ようとしないんだ。
だから
約束してもらったんだ
素直になるって
お父さんを好きになって欲しい
なんて言わないよ
今まで受けた理不尽を
全て忘れろなんて言わないよ
ほんの少しで良いんだ
周りの声に耳を傾けて欲しい
その鋭く狭められた視界を
もう少しだけ開いて欲しい
私は知ってるの
焦凍は優しい目をしてるんだよ
だから、出来ない筈がないんだよ
約束
してくれたよね―――…?
緑谷くんの両腕が動く度に揺れる
まるで肩掛け鞄の紐の様
もう、
上がらなくなってしまったのだろうか
赤黒く変色したそれは
ついているというより
ぶら下がっていると言った方がしっくりくる
そんな緑谷くんの攻撃なら
威力だってダメージだって
今までに比べたら格段低いだろうに
波に揉まれる枯れ木の様に
打たれるがまま身を揺らす焦凍は
しかめた顔に戸惑いを浮かべ
ただ、宙を睨んでいるように見えた。