第34章 【空色】傷跡のキセキ
ハイリと交わした約束は
破ってねぇはずだ
俺は自分の意に素直に動いているまでだ。
「その両手じゃもう戦いにならねぇだろ
終わりにしよう。」
言葉と同時に出てきた氷結は
もう俺の制御下を離れ
無差別に攻撃する怪物のように思えた
幾本もの鏢が
束になり真っ直ぐに伸びていく
これで終わり
緑谷の両手はぶっ壊れてんだ
もう、攻撃の仕様がねぇ
一撃でケリがつくはずだった
「どこをみてるんだ…!」
「!」
地を這うような声に
目を見開いたのが先だった
――SMASH!!
眼前の氷は砂利の様に粉々に
襲いくる風圧に氷の衝立を背に当てども
衝立ごと圧されちまう
なんとか踏みとどまったのはライン際
氷に預けていた身体を起こし
この風の根元
台風の目を見やる
(危ねぇ、油断した。)
勝負以外の事を考えた
一瞬の気の緩みが油断を生んだ
これで終わらせるつもりだった
何故なら
緑谷の攻撃手段はもう
潰えたと判断し――……
「なんでそこまで……」
声は意図せず押し出された
見やった先の男の指
右手の人差指に
とっくに壊れていたと思っていたその指は
朱殷(しゅあん)を通り越し
深い滅紫(めっし)に染まる
もはや感覚もないだろうに
痙攣だろうか
ピクピクと震えているのがわかった
震える口が
わなわなと開く
緑谷が震えてんのは寒さからじゃねぇ
これは
「震えてるよ轟くん」
怒りだ
指だけに留まらず
手に腕に
戦慄くその右腕は
電池の切れかけた人形のように
たどたどしく動いてるってのに
「個性だって身体機能の一つだ
君自身、冷気に耐えられる限度があるんだろう…!?」
カクカクと拙く動いてるってのに
着実に形を変えていく
「で、それって
左側の熱を使えば解決できるもんじゃないのか……?」
ゴキリ、グチリと鳴る音は
もはやそこだけ違う生き物かと思う程
痛ぇなんてもんじゃねぇだろうが
なんでそこまでする必要がお前にある?
「半分の力で勝つ!?
まだ僕は君に傷一つ付けられちゃいないぞ!」
耳障りの悪い音を立てて
握りしめられた拳から滴った飛沫は
血か、汗か
「全力でかかって来いッ!!!」
その言葉に
焼き切れた回路が誤作動を起こした気がした。