第34章 【空色】傷跡のキセキ
『緑谷』
朝の自分の言葉がこだまする
エコーをかけてジワジワと
『客観的に見ても
実力は俺の方が上だと思う』
間違った事は言ってねぇ
事実、緑谷は防戦一方
既に右手はもう、使いモンにならねぇ
左手だって
いや……
「……さっきよりずいぶん高威力だな
近づくなってか。」
左腕か。
どう見たってこっちが優勢
傷らしい傷一つ付いちゃいねぇ
反して緑谷は既に満身創痍
晴れた視界に現したこの緑谷を
ハイリはどんな思いで見ている事だろうか。
右手の皮膚は爛れ、焦げ
もう鬱血どころじゃねぇ
左腕は力なくだらりと下がり
上げんのすら叶わねぇんだろう
骨折か熱傷か
銅(あか)よりも黒く
蒼(あお)よりも黒く
ボロボロだ
吹き飛ばされねぇように衝立にした氷から背を離し
立ち上がる
ついた息が白いのは
まだ俺に余裕があるからだ
なのに
どこかに焦りがある
それは見えないものへの
表現しようの無ぇ恐れ
いつだって一瞬で勝負を付けてきた
今日は時間をかけ過ぎた
耐久戦は好きじゃねぇ
「守って逃げるだけでボロボロじゃねぇか。」
右側を這う震えに息をつく
“個性”を使い過ぎたか
右頬も、右腕も霜が降り始めている
辺りの温度も立て続いた氷結の所為で
氷点下もいいとこだ
肺から押し出した息が目端をよぎり
その白さに安堵する
今度は余裕じゃねぇ
まだ自分が人間なんだと
そう思っちまうくれぇ感情が麻痺すんだ
相手が緑谷なら一層凍てついて行く
白く泳いだ息が雲散し
差し示すのはA組スタンド
不思議と真っ直ぐ捉えちまう亜麻色は
きっと悲痛な面持ちで俺を見てる事だろう
素直になれとオマエが言った
だから感情のままに…
目を逸らすように視線をやった反対側
遥か先のスタンド席
腕を組んで見下ろすクソ親父の口角に
もう一つ息をつく
下がったソレに
出てきた礼は冷たいもんだった
「悪かったな、ありがとう緑谷
お陰で……奴の顔が曇った。」
感情に従ったまでだ
信念に従ったまでだ
誓約に従ったまでだ
正直に、素直に
なのに拭いきれねぇこの罪悪感は
なんだってんだ?
自分で問うて自嘲する
答えはきっと
ハイリへのモンなんだろう。