第5章 【桜色】桃色診断書
~Side轟~
「は…?」
自分で言うのもなんだが…俺にしては珍しく
頓狂な声を上げてしまった。
読んでしまった罪悪感より疑問の方がでかすぎる。
(そもそも誰の彼女になりたいんだアイツ…。)
とっくに付き合ってるつもりだった俺にしてみりゃ、かなりの衝撃だ。
わりとわかりやすい奴だし、何だかんだごねるが
最終的には受け入れてくれるし
一方的な勘違いだとも思えねぇ。
それとも、勘違いなのか?
寝起きで回り始めたばかりの頭に慣れない議題。
言うなればタイミングが悪かった。
「轟くん?」
ふわりと香るコーヒーの匂い、
視界にマグカップが映って、腕を辿り視線を上げると
ハイリが呆れ顔でコーヒーを差し出していた。
「目ぇ開けたまま寝てたよ?
二度寝する?」
何故か得意気に差し出されたカップを受け取ろうとして指が触れる。
それに動転して受け取るタイミングは大幅にズレ
すり抜ける様にカップが手から離れていった。
「あ…」
立って屈んだ状態のハイリより
座っていた俺の方が対応しやすかった筈だ
“個性”を使えばなおさらだ。
なのに呆気に取られてだた見送るだけだった。
(……は?)
それは一瞬の出来事。
コマ送りの映画でも見ている様だった。
カップから床までは精々1m弱と言ったところだっただろう
その僅かな間に
腕を伸ばし
カップの取っ手に指を掛け
コイツは最小限の動作でソレを受け止めた。
「せーふっ…!」
ヘタリと床に座り込んで息をつく姿からは
そんな俊敏な行動を取れる奴にはとても見えねぇ。
両手でカップを握り直して「どーぞ」と差し出すハイリは、それがどれだけ異質な行動なのか自覚していないように見えた。
「お前って――……」
思い返せばこれが初めてじゃない。
こいつはとにかく目端が利く。
最初に会った時にしても、
昨日の飯の時にしても
洞察力とでも言うべきか、
対象を見て判断するまでが無駄に早ぇ…。
今の今まで単に気が利くヤツだと思っていたが
これはそんな比じゃねぇ。
「――…目、良いよな?」
問うと同時に見据えた目は、自然と鋭いものになっていた