第34章 【空色】傷跡のキセキ
スタジアム中央に敷かれたコンクリート
正方形の碁盤の四方には
両雄の闘志に負けし劣らず
煌々と燃え盛る炎がくべられている。
ならばその内側
一段高い無地の盤上に向かい合うこの二人の男は
プレイヤーの駒と言ったところだろうか
動かすのは父か師か
それとも己か
ひっくり返らんばかりの声が
ゴングを鳴らす
『今回の体育祭 両者トップクラスの成績!!
まさしく両雄並び立ち、今!!!』
緑谷 VS 轟
『STA―――RT!!』
肌を裂くような風が
開始のコール直後にスタジアム半面に吹き荒んだ
それは爆豪・麗日戦の時の爆風とはまた違う
真冬を思わせるかのような凍て風
その風はステージにくべられた炎だけでなく
観客の体温までをも掻き消した
開始早々ぶつかったのは
轟の氷塊と緑谷の衝撃波だ
まるで天災の様な暴風に
観客席は身を震わせる
それはハイリも同じこと
だが原因は皆と違う
亜麻色の視線は衝撃波を放った
緑谷の指へと注がれていた
(ケガを顧みる気はなさそうだな。)
馴染みと化してしまった自分の患者に
出るのは溜息しかない
赤く爛れた緑谷の右手の中指
それは打ち身の色を通り越し
もはや壊死した皮膚だ。
だけど怒る訳にもいかない
未だ“個性”のコントロールが出来ていない彼には
自損覚悟で最大パワーを打つしか術はない
轟のあの
氷の波を打ち消すには
続く第二破
轟の右足から隆起する氷は
まさに風に煽られた海面
ステージを波立たせ迫る様は
海上に顔を出しながら突き進む魚雷の様
固い音を立てながら緑谷を撃たんと突き進む
エイムを定められた緑谷は
人差し指を爪弾き、青い魚雷を迎撃した
――SMASH!!!
指一本
爪弾いただけで巻き上がる爆風
そして滲む赤
これが今
緑谷の駒の中で最善の一手
第三破、第四破
もう右手は捨てたとばかりに順番に爪弾かれる
字のごとく
その指の皮膚は弾け
飛び散る血飛沫が
コンクリートへと滴った
(痛くない、筈がない。)
そう、痛くない筈がない
緑谷の頬に流れる脂汗
頬だけじゃない
額に、こめかみに、幾筋も流れる滝のような汗
轟を見極めんと、充血した目を見開いている
苦悶に歪む表情には
勝利以前に必死さが見えた。