第34章 【空色】傷跡のキセキ
見送った背は
未だ遠く見えた
10年だ
10年かけて抉られ続けた傷が
そう簡単に癒えるはずがない
その背を見送った少女は
そこに自分を重ね小さく笑う
静かに
柔らかに
痛みも憎しみも恐怖も
ずっと続きはしないのだから…と。
(それもわかるんだけどね…。)
期待を込めてしまったクラスメイト
緑谷出久との一戦
“個性”の制御は未だ出来ているとは言えない
故に加減を間違えるだけで怪我をしてしまう
No.1ヒーロー オールマイトと
何かしらの繋がりがあると聞いた
だから轟は事情を話したのだと
何かしらとは何だろうか
血縁?それとも師弟?
だとしたら轟は
本当に緑谷に対して
潰す勢いで攻撃に掛かるだろう
父親を否定するだけの為に
轟の事情を知った緑谷は
一体どう動くだろうか
(緑谷くんなら…たぶん…)
そこまで考えたハイリは静かに首を振る
そんな事、今考える事じゃない。
伏せた睫毛が上を向く
動く気配のなかった爪先は後方を向いた
対極に位置する様で
どこか似ている気がしてならない二人の試合を
その目に焼き付けるために
靡いた髪一筋
風に浮いて頬を撫でる
それを耳へと掛け直し
少女は一歩踏み出した。