第33章 【空色】バイタルチェック
どこまでも優しいハイリは
やっぱ天使なんじゃないだろうか
包み込んでくるような微笑みに
本気でそんな事を考えた。
「別に、話して欲しいって言ってる訳じゃないよ?
ただ私はそう簡単に離れる気はないって事
わかって欲しいだけっ!」
どうやら、
ハイリの処方はこれだけじゃなかったらしい
さもわかってる
そんな顔で笑う天使の背には
さっき見た時には見えなかった羽が見えた
目を細めてなきゃ見てらんねぇくらいの眩しい笑顔は
陽だまりどころじゃねぇ太陽みてぇだ
「焦凍は私よりずっと素直なんだから
もう少しだけ周りを見て?
ちゃんといるよ!大丈夫、素直になるんだ!」
両頬に当てたままの手で
俺の目元を撫でながら
何故か得意気に笑う
何度も「素直」を強調しやがって
コイツの何処が弱いって?
思わず、笑みが漏れた
やっぱコイツは俺の癒しだ
「お前、いい女だよな。」
髪を撫でながらそう言った途端
間近にあった視線が
ストンと音を立てて離れていった
「………そ、ですか…?」
いつもの身長差から更に下がった視線は
俺の胸元へ
指先が触れたハイリの耳は熱い
離れた身体と両手
その両手で覆われた小さな顔が
更に俯いていく
(公衆の面前で告白までした癖に
これは恥ずかしいのか…?)
どうやらいつもの調子を取り戻したらしい
もう少しさっきのままで居て欲しかった気がしなくもねぇが…
とは言え
あの言葉の後にこの仕草
整理のつかねぇ今の頭じゃ
俺だってからかう余裕もねぇ
調子を乱されたのは俺だって同じだ
「なんか、暑ぃな…。」
「そだね…。」
頭に向かって急速に集まる熱は
片手じゃ覆いようもねぇんだろう
それでも片手で両目を覆い
更にはハイリに見られねぇように
顔は上を向いた
ハイリは変わらず俯いたまま
向かい合ったまま
目も合わさねぇ
動きもしねぇ
傍から見た俺らの姿はさぞ
滑稽なことだろう。