第33章 【空色】バイタルチェック
ふわふわ靡く髪は頬を撫でるし
囁く声も近すぎてくすぐってぇ
いつもこんなんだったか?
戸惑う頭ン中は
いくつもの色が入り乱れている
わかってねぇとか
この短い間に
何があったんだろうかとか
だがその中でも一番強い色は
この言葉が約束染みたモンだっていう濃藍だ
白藍より浅藍より中藍よりも
藍の中で一番濃いハイリの哀色。
「ずっと」だなんて
意味わかって言ってんのか?
怖ぇんじゃ無かったのか?
自分の事よりも
ハイリの事で頭は満たされていた
「お前…」
だが頭が纏まらねぇ
言葉はもっと纏まらねぇ
藍色を押し上げて顔を出す雄黄色が
その赤みを帯びた喜色が
あまりに目に眩しくて
どうにもむず痒くて堪らねぇ
一度開いた口はそれ以上動く事無く
目だけが泳いだ。
(ンなこと言われたら
尚更手放し難くなっちまうだろうが…)
守りてぇと思う気持ちに嘘はねぇ
弱ぇ癖に矢面に立つような女だから
コイツを失うなんざ考えられねぇから
なのにしっかり嬉しいと
そうしてぇと思った自分もいて
哀と喜のコントラスト
対極に位置する感情の色は
正直言って混ぜ合わせるのに抵抗しかねぇ
どんだけ掻き混ぜたところで
色味は濁りを増す一方だ
そんな半端な感情を抱えたまま寄りかかっても
共倒れじゃねぇか
「わりぃ…」
選んだ答えは動かない事
淀む言葉に泳いでいた視線は
パチンと音を弾かせてハイリに捕らえられた。
「焦凍!」
両頬に温もりを感じて初めて気付く
結構強めに叩かれたのだと
いつも腰に当てている手は
今日は俺の頬を挟んでる
丸い目はいつにも増して不満気だ
眉の角度もいつもより吊り上がっているが…
相変わらず
(全っっく怖くねぇ…。)
たまに思う
コイツが本気で怒ることなんて
あるんだろうかと。