第33章 【空色】バイタルチェック
「ハイリ…」
出た名は無意識に近かった
夢か現か
何処かリアリティに欠ける光景
それがユラと揺れ
緩慢に流れていた白黒の世界が動き出す
抱き付かれたと理解した途端に回りだす
戻って来るBGMと色差し始めた背景で
ステージを注視していたスタンドの生徒が
何ごとかとこっちを注視していた。
なのに
腕の中で笑う彼女は
間違いなくハイリだってのに
違う奴なんじゃねぇか…
俺がそう思うのも無理はねぇだろ
呟いた名に
ハイリは流れにそぐわねぇ言葉を返した
「好きだよ、焦凍。大好き!」
何か言おうと開いた口から
音は出なかった
ハイリがどんな女か
俺はよく知っている
下手したら親代わりだと豪語する
この学校の教師たちよりも
人前で抱き付くなだとか
外でキスは駄目だとか
言葉は選べだとか
そんなこと言いながら頬を赤くするような女だ
知ってるからこそ躊躇した
その割に何も考えられず
瞳に吸い込まれたかのように
見つめ返した
賑わうスタジアム内
後方通路とは言え
ここは他クラスのスタンド席で
人がいるなんてレベルじゃねぇ
こんな雑多のど真ん中で
こんだけの大声上げて
抱き付いて
キスしてきた
極め付けが大衆のど真ん中での告白だ
動揺くれぇ、俺だってする
なんたって
目の前の女は
今まで見た事ないくらいの眩しい笑顔で笑ってんだ
無邪気で無垢なそれは
まだ幼い少女の様。
ハイリらしからぬ言動に
コイツに一体何があったのか……?
「どうした…?」
やっと出た言葉
問いは
確認だった。