第33章 【空色】バイタルチェック
会いたいと
願えばいつも来てくれる
コイツにはきっと
一生敵わねぇんだ
「焦凍っっ!!」
歓声上がるスタジアム
控室にずっといる訳にもいかねぇ
かと言って自クラスのスタンドに行く気にもなれねぇ
ただどこかのクラスの
スタンド後方通路に立ったまま
進みゆくステージを見やる
上鳴とB組の塩崎
飯田とサポート科の発目
青山と芦戸
淡々と試合が進みゆく中
俺の名を呼ぶ声は
常闇と八百万の試合が始まった直後に響いた。
「いたーーっ!!」
人の合間を縫って走って来る
跳ねる度に靡く長い髪と
無邪気な笑み
振り返るまでもなく
それが誰かはすぐにわかった
回した首
嬉しそうに駆けて来る姿は
さながら…
主人を見つけて走って来る
犬にしか見えねぇ。
そこまで想像ついたのに
なんでその先に思い至らなかったんだろうな
様子がいつもと違うとは感じた
良い表情をしていると
そう思った筈だ
コイツにしちゃ
らしくねぇ大声だとも
だがその表情に見惚れていた所為で
対応が一歩だけ遅れた。
ただ
それだけだった
「見つけたっ!」
言葉と同時に
細い腕は俺の首へと巻き付いた
ふわりと包む安心する香り
勢いつけて掛かる体重
右頬に触れた柔らかな温もり
こんなウルセェ中で
チュッとなったリップ音が
はっきりと脳に響いた
視界はハイリ以外の全てがモノクロで
スローモーションだ
視界を埋め尽くした亜麻色が
ゆっくりと下がっていく
コイツを抱き止めるくれぇ
反動を差し引いても
なんてことないはずだ
なのに俺の両足は
1歩ずつ後ろへとよろけた。