第33章 【空色】バイタルチェック
フラリ、よろけた足
健診を終えた私は足早にスタンドを後にした
診た人数11人
男子だろうが女子だろうが
試合を控えていようがいまいが
手を上げてくれたクラスメイト、全てを診た
処方しなかった分
時間は掛からなかったけど…。
(張り切り過ぎた…。)
通路の壁に手を付いて苦笑する
眩む視界でも見える景色は今朝よりずっと明るい
入学前の自分ならとっくに夢の中だ
体力は不本意な学生生活の中でも
確実についている
ならこれからは?
もう不本意じゃない
自分で決めたんだ
やることは山ほどある
基礎体力の向上
身体能力の強化
知識も、経験も積まなきゃいけない
もっと成長しなきゃいけない
なりたい自分、見つけたから。
だから
今は
(どこだろ……?)
額に滲む汗を拭いながら
思い出す言葉は先程のもの
診察中
八百万さんから聞いた焦凍と瀬呂くんの試合の内容だ
『瀬呂さんの先制、テーピングで捕らえた轟さんをそのまま場外へ…勝負はあっけなくつくかと思われました。』
ですが…そう挟んで
僅かに言い淀んだクラスの副委員長は
私を気遣ってくれたのだろう
伏せられた瞳は僅かに泳いでいた
何も問わず待つこと十数秒
泳ぐ瞳は天を仰いで
『轟さんの大氷壁…
氷に貼り付けられた瀬呂さんは行動不能
……一瞬でした。』
記憶を映すかのように見上げながら苦笑する
同じように見上げても
もうそこにあった氷は溶けて
ステージに氷塊を残すのみとなっていて
何の映像も無かったけど
彼女が受けた衝撃は十分伝わった。
「焦凍……。」
推薦入学者だ
毎日診断してたんだ
どれ程の実力か
把握してるからわかる。
感情的になったんだ
加減出来ない程に
胸を占めていた感情は怒りだろう
それは瀬呂くんへのものじゃなくて
きっと、父親への怒り
あの場にエンデヴァーさんが居たって事は
焦凍と会った可能性が高い。
ううん、絶対会ってる。
「どこにいるの…?」
控室にはもう居なかった
A組のスタンドにも居ないとなると
このスタジアム、A組のスタンド以外のどこか
「範囲、広すぎ……。」
スタジアム中央
溶けた氷に濡れたステージは
もう渇きつつある
ただ会いたくて
もうそれだけで
スタジアムの中を
駆け回っていた。