第33章 【空色】バイタルチェック
「ぉお?ど、した…?」
引かれた腕についていった頭は
ハイリ自身の予想より遥かに
爆豪との距離を詰めていた
俯くだけで額が触れる距離
強い力に息を呑み
近い距離に頭を引きながら
何ごとかと親友である筈の少年の真意を探る
亜麻色の髪が掛けられた少女の耳
かけられた言葉は
その耳に慣れ親しんだものだった。
「診ろ。」
「うん、わかった。」
何度この言葉を口にした事か
素直になれない爆豪にとって
ハイリへ診断を求めるその殆どが口実に過ぎない
話しかける理由として尤もらしいこの単語を
ハイリは当たり前のように受け入れる
誰も
轟と言えど止めることはできない唯一の口実
自分の思いを自覚した不器用な少年は
その日からずっとその言葉をきっかけに
少女の視界に入ろうとしていた。
頬に細い指先が触れて
間近で絡む視線
決して逸らさない
瞬きすらしない亜麻色の瞳
誰にも邪魔される事なく
真正面から見つめる事を許される唯一の時間
たったの5秒
瞬き一つの間
言葉通り瞬いたハイリは「うん。」と深く頷き
口角が上がるのと同じ速度で
目尻を下げていく。
そして
満足気に、誇らし気に
いつも同じ言葉を口にするのだ。
「完っっ璧、惚れ惚れしちゃうくらい!」
誰もが喜ぶであろうこの言葉に
爆豪は胸の内で舌打ちをした。
(またか。)
医師にとって健康な患者ほど縁遠い者はない。
どれだけ称賛されようと
この診断が終わったらハイリはすぐさま他へ目を向ける
今日も、また
「さて、と。
他に調子が悪い人っ!」
「「「はーぁい!」」」
立ち上がり右手をピンと天に向かって挙げるハイリは
まるで園児を相手する保育士だ
甘えるかのように
手を挙げるクラスメイトに
嬉しそうに口元を綻ばせていく
「試合控えてる人優先でーす!」
その表情が
今まで見たどの笑みよりも綺麗だと
見やる目すら細まっていく。
徐に宙へ浮いた視界に思い浮かぶのは轟の姿だ
この変化は
あの男がもたらしたんだろう
今日までに決めると言っていた
きっとあの男に決めたのだろうと
勘違いに勘違いを重ねたままの少年は
天井を仰ぎ
まだ溶けきっていない氷壁の先を睨みつけた。