第32章 【空色】KT 1℃
~Sideハイリ~
そもそも、2人が知り合いなのだと
なぜ今まで思い至らなかったのだろう
父は警視庁の警視で
対面するヒーローは
史上最多の事件解決数を誇る我が国のNo.2ヒーロー
ヒーローと警察は切っても切れない関係だ
事実父はヒーローの知り合いが多いし
私自身の知り合いもつられて増えていく
エンデヴァーさんもその一人と思えば
顔見知りであってもなんら不思議はない
(どうしよう、お父さんにバレちゃう…。)
バレたらただじゃすまない
身を縮めて父を横目でみるけれど
やっぱり何考えてるのか読めやしない
チラと戻した視線
フンと鼻を鳴らすヒーローは
以前会った時より更に威圧的だ
高い所から私を一瞥し
すぐに父に視線を戻す
不機嫌以前に嫌悪感滲む視線に
私は慌てて頭を下げた
「いつも、父がお世話になってます
娘のハイリです。」
「初めまして」と言うべきか
「先日はお世話になりました」と言うべきか
悩んでいたけどこの態度
どう考えたって前者でしょう
目は一瞬しか合わなかったけど
その視線は物凄く居心地悪いけど
今はわかりやすくて有り難い。
向けられた嫌悪感はこの際後回しだ
あとでゆっくり落ち込もう
そう考えて頭の上で飛び交う言葉を追う
「貴様に似ておらんのが救いだな。」
「僕もそう思うよ、妻に似て良かった。
そうそう!それにしたって息子さん見事だね。
流石君の息子さんだ。」
「フン、お前の誉め言葉はいつも胡散臭いな。」
「ひどいな、本心だというのに。」
「くだらん……俺はこれで失礼する。」
立ち止まった間は時にして約1分
形だけのあいさつと雑談にキリを見たヒーローは
息をつきながら踵を返した。
多分、だけど
エンデヴァーさんはお父さんの事が嫌いなんだろう
滲む嫌悪感が向けられているのは
よくよく見ると父の方だった。
(胡散臭い…か。)
わからないでもない
父ほど心の中が見えない人間は居ないもの
「ああ、すまない。
これから息子さんの大事な試合だったね!」
なのに父は、これだけ邪険にされているにも拘らず
未だいつもの笑みを浮かべ
立ち去るヒーローの背に手を振っていた。